アフガニスタンへの関与を深める中国 中露の利害はどこまで一致しているのか

熊倉潤(法政大学法学部准教授)
 強化されていく中露関係。その背景の一つには、アフガニスタンの情勢があった。現在、中国とロシアの関わりはどのようになっているのかを読み解く。
(『中央公論』2021年10月号より抜粋)
目次
  1. 原子力協力プロジェクトの存在
  2. アフガニスタン問題という宿痾

原子力協力プロジェクトの存在

 この夏、中国とロシアの関係――中露関係がいっそう強化されようとしている。今年のはじめには、アメリカでバイデン政権が発足したことにともない、米露関係になんらかの変化が生じるのではないかという期待があったが、関係改善はすぐには起きそうにないことが次第に明らかになった。

 一方、中国とロシアはさまざまな分野で結束を強めている。今年に入ってとくに宣伝されたのが、原子力協力プロジェクトである。

 この原子力協力プロジェクトとは、遼寧省葫蘆島(りょうねいしょうころとう)と江蘇省連雲港市(こうそしょうれんうんこう)の原発にロシア製の原子炉を2基ずつ設置するというものである。5月19日にとりおこなわれた着工式には、習近平国家主席とプーチン大統領がテレビ会議形式で立ち会った。アメリカが中国との「デカップリング」(切り離し)を進めるなか、中国からみれば、アメリカが離れていっても自国と協力する国が実際に存在することを表明するよい機会となった。

 一方のロシアは、かつてのソ連ほどの国力はないにせよ、原子力分野では一日の長がある。プーチン大統領はそれを巧みに利用して、経済規模だけで見れば自国の何倍もある中国相手に、特別な友人というポジションをしっかりと築いている。

 習近平国家主席とプーチン大統領は、それから1ヵ月ほど経った6月28日にまたテレビ会談をおこなった。締結から20周年を迎えた中露善隣友好協力条約の更新を正式に発表するためである。会談と同時に共同声明が発表され、政治、安全保障、経済、エネルギーなど、さまざまな面で今後も協力を深めていくことが表明された。

 声明ではまた、アメリカが「中距離核戦力全廃条約」からの離脱後、世界の戦略的安定を破壊していること、アメリカがグローバル迎撃ミサイル計画などを押し進めていることについて懸念が表明された(※1)。この箇所にかんしては、アメリカははっきりと名指しされており、中露は連携して同国を牽制する姿勢を鮮明にしている。

 折しもこの中露会談の少し前、6月16日には、米露首脳会談がスイスでおこなわれ、バイデン大統領はロシアとの対立の緩和に向けて動き始めていた。それにともない、アメリカは中露関係にくさびを打ち込むつもりなのではないか、はたまたロシアがアメリカに接近し、反中包囲網がロシアにまで拡大するのではないかという観測もあった。

 しかし6月28日、中露首脳テレビ会談に現れたプーチン大統領は、いつもどおり中国の良き友人としての振る舞いを見せたのであった。プーチン大統領のいつもの言い方によれば、中露関係は「かつてないほどの高み」にあることが、改めて内外に示された。米露首脳会談が1回開催されたくらいでは中露関係は微動だにしないことを、世界に知らしめたように見える。

 その後、7月15日にウズベキスタンの首都タシケントで開催された中露外相会談でも、中露両国の絆の強さがアピールされた。

 ここで王毅国務委員兼外相とラブロフ外相は、一部の国(アメリカを指す)が企む世界の一極支配に対し中露が共同で対抗するという、これまで何度も言われてきたことを再確認している(※2)。

 またアメリカなどではボイコットも取りざたされている今冬の北京オリンピックについて、ロシア側は支持すると明言した。これは2014年2月、ロシアがウクライナ問題で欧米諸国から非難を浴びるなか、習近平国家主席がソチオリンピックの開会式に参加した経緯を踏まえてのことである。

 欧米諸国からの非難に対し、中国とロシアは互いにかばい合ってきた。近年、中国は香港、新疆(しんきょう)ウイグル自治区の問題などで、ロシアは反政府活動家ナヴァリヌイ氏の問題などで批判にさらされてきたが、とりわけ人権関連の批判に対し、中露両国は人権を口実に内政に干渉することを断固許さないという点で一致している。

 欧米諸国からの批判に対して共闘するという基本線は、アメリカでバイデン政権が発足した後も変わらない。そればかりか、中国は欧米諸国の人種差別問題を批判するなど、反撃の姿勢を明確にしており、これにロシアも同調している。

 中国に同調する国はロシア以外にも、ベラルーシ、北朝鮮、イラン、シリア、ベネズエラ、その他アジア、アフリカに多く存在し、数の上では中国を非難する側を上回る勢いである。

 実際に今年6月、国連人権理事会において新疆、香港、チベットの人権状況を懸念する共同声明が発表された際には、44ヵ国がこれに賛同したのに対し、69もの国・地域が中国を擁護する別の声明に署名した。欧米諸国からの内政干渉はお断りであるという中国側の主張に、多数の支持が集まっているのが現状である。

 そうした意味では、中国とロシアは、欧米諸国のダブル・スタンダードに内心では辟易している多くの国の声を巧みに代弁しているとも言えよう。

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