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アフガニスタンへの関与を深める中国 中露の利害はどこまで一致しているのか

熊倉潤(法政大学法学部准教授)

アフガニスタン問題という宿痾

 このように中露両国は、以前にもまして欧米諸国からの批判に対し共闘する姿勢を明確にしているが、この夏、中露両国が連携を強化した背景には、もう一つ大きな要素がある。それはアフガニスタン情勢が焦眉の急を告げていることである。

 アフガニスタンでは、9・11同時多発テロから20年の節目を迎え、米軍が撤退を進めるなか、タリバンが勢力を急速に拡大させ8月15日に実権を掌握した。それにともなって、隣接する中央アジア、そして新疆ウイグル自治区にさまざまな影響が及ぶことが懸念されている。

 地域の安定について利害が一致する中露両国は、タリバンが勢力を拡大し始めてすぐにアフガニスタン情勢の悪化に備えて動き出した。6月28日の習近平国家主席とプーチン大統領のテレビ会談では、双方がアフガニスタン情勢を注視し、地域の平和と安全、安定を共同で維持することを強調した。

 さらに7月14日にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催された上海協力機構の外相会合では、アフガニスタン情勢について、早期停戦、暴力の停止、和平プロセスを求める共同声明が採択された。上海協力機構とは、中国とロシアが中心となって、国境画定、地域の秩序維持、「反テロ」などの面で、協力をおこなってきた組織である。

 8月前半には、中国の寧夏回族(ねいかかいぞく)自治区において1万人以上が参加する中露合同軍事演習がおこなわれた。「西部・連合2021」と銘打ったこの演習には、中国側から新疆ウイグル自治区を統括する西部戦区が参加している。中国国防部は、この演習をつうじて、「テロリストの勢力を攻撃し、地区の平和と安定を共同で維持する決心と能力を示す」としている(※3)。「テロリスト」という言葉からも明らかなように、昨今のアフガニスタン情勢を念頭に置いたものと見られる。

 このように素早い初動を見せた中国とロシアだが、その背景にはアフガニスタン情勢に対する、それぞれの懸念がある。

 中国にとってアフガニスタン情勢は、自国の最も西に位置する新疆ウイグル自治区の安定に直結する問題である。アフガニスタンと中国領新疆は、アフガニスタンの東北にあるワハン回廊でわずかに国境を接するに過ぎない。

 しかし、北のタジキスタン、南のパキスタンをつうじて、アフガニスタンと新疆は密接につながっており、歴史的な関係はシルクロードの昔にさかのぼる。中国側はここ20年以上にわたって、中国がいうところの「テロリズム、分裂主義、宗教的極端主義」の勢力(あわせて「三股勢力」とよばれる)がアフガニスタンの原理主義勢力と結びつくことを警戒してきた。その対策として国境の監視を強化してきたが、近年では新疆に住む住民にパスポートを返納させ、出国できなくする措置をとったほどである。

 一方のロシアにとって、アフガニスタンはトラウマのような存在である。1979年に始まったソ連のアフガニスタン侵攻は、国力の消耗につながり、ソ連の没落を早めたとされる。その後独立したタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンは、アフガニスタンと国境をじかに接している。これらの地域は歴史的に、戦乱、政変が起こるたびに、難民なり亡命者なりが出たり入ったりする関係にあった。

 当然ながら、今回もアフガニスタンの住民が国境を越えて逃れてくることが想定される。現に7月には、アフガニスタンの兵士1000人以上が、タリバンとの衝突を避け、タジキスタン領に逃れてきたという報道もある。さらにタリバン勢力がカブールに入った8月15日にも、アフガニスタンの将兵がタジキスタン、ウズベキスタン領に入ったという。

 タジキスタンは1990年代に悲惨な内戦を経験した国であり、現在もロシア軍が駐屯し、地域の重しとなっている。そこに新たな不安定要因が生まれることは、ロシアにとって望ましくない。

 8月に入ってからロシア軍は、アフガニスタンとの国境近くにあるタジキスタンの演習場で、タジキスタン軍、ウズベキスタン軍と合同で軍事演習をおこなうなど、警戒を厳にして情勢に臨んでいる。

 このように中国とロシアが抱える懸念は、それぞれかなり切迫したものである。それだけに中露両国は、アフガニスタンから撤退するアメリカに対して批判的である。7月の上海協力機構の外相会合後、王毅外相は、アメリカはアフガニスタン問題をつくった張本人で、地域の安定に責任があると名指しで非難した(※4)。

 またラブロフ外相も、アメリカ人は任務が完了したと言っているが、任務が失敗に終わったことは誰の目にも明らかだと批判した(※5)。この点でも中国とロシアは、アメリカへの強い反感をベースにしつつ、連携を強めていると言えよう。

 中露関係は、従来からの対米関係に加え、アフガニスタン問題でも共闘する必要性に迫られ、ますます強化されている。中露関係はよく「離婚なき便宜的結婚」といわれてきた。互いにさほど信頼していないが、戦略的に利用しあっているため、なかなか別れられない夫婦のようだという意味である。この夏、アフガニスタン情勢の悪化をうけて、戦略的に協力しあう理由がまた一つ増えたように見える。

cd04ac31e6e3833602f0f79eb855ff49ab313a3e-thumb-1055x707-19372.jpg中央アジア関係地図

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[注]
(※1)新華網「中華人民共和国和俄羅斯聯邦関于《中俄睦隣友好合作条約》簽署20周年的聯合声明(全文)」2021年6月28日。
http://www.xinhuanet.com/world/2021-06/28/c_1127606620.htm
2)中国外交部「王毅会見俄羅斯外長拉夫羅夫」2021年7月16日。
https://www.fmprc.gov.cn/web/wjbzhd/t1892541.shtml
3)中国国防部「2021年7月国防部例行記者会文字実録」2021年7月29日。
http://www.mod.gov.cn/jzhzt/2021-07/29/content_4890594.htm
4)中国新聞網「王毅談美従阿富汗撤軍:美国需以負責任方式确保局勢平穏過渡」2021年7月18日。
https://www.chinanews.com/gn/2021/07-18/9522636.shtml
5)Лавровзаявил, чтомиссия СШАвАфганистане провалилась. │ИТАР-ТАСС, 16.07.2021.
https://tass.ru/politika/11921031
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熊倉潤(法政大学法学部准教授)
〔くまくらじゅん〕
1986年茨城県生まれ。東京大学文学部歴史文化学科東洋史学専修課程卒業。同大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了、博士(法学)。アメリカ(イェール大学)、ロシア(国立人文大学)、中国(北京大学)、台湾(国立政治大学)にて在外研究後、アジア経済研究所研究員を経て2021年より現職。

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