「カンニング不可能」と言われる中国のオンライン入試はどう行われているのか。新型コロナを乗り越え、いち早く成長を果たした決め手は14億人総動員の「人海戦術」だった
ポスト・コロナの「新常態」
一方で大学の講義はどのように行われているだろうか。
『数字中国 デジタル・チャイナ-コロナ後の「新経済」』(著:西村友作/中公新書ラクレ)
中国では、新型コロナウイルスの抑え込みに成功し、2020年下半期にはほぼ日常を取り戻した。9月からの新学期では、留学生を除く中国人学生たちはいつものように大学構内の寮に住み、講義も対面式に戻っている。
そのような中でも、新型コロナ禍で開発された便利なデジタルツールの利用は続いている。
私は対外経済貿易大学以外に、山東財経大学でも2020年8月から「特聘教授」を兼務しており、講義や大学院生の論文指導、若手研究者の育成などを負っている。
私の住む北京から約400キロ離れた山東省済南(さいなん)市に毎週通勤するのは困難をともなうが、講義は3分の2をオンラインで対応し、論文指導もSNSとオンライン会議ツールを使って定期的に行っている。新型コロナ禍でオンラインツールが普及したことで、仕事の幅も大きく広がった。
2021年3月に実施された大学院生面接試験もオンライン方式だった。面接そのものはウェブカメラ付きのパソコンで行うが、不正防止のためにスマホも使う。
スマホのカメラを使って学生の部屋を360度チェックしたあと、本人の真横に設置して側面から受験生と机全体を映し出すのだ。
我々面接官は大学の教室に集合しており、受験生1対面接官5で、専門知識、英語力などをチェックする。
このときに初めてオンライン面接試験を経験したが、リアルの面接と比較しても遜色ないと感じた。
面接試験だけではなく、シンポジウムやミーティングなど、さまざまなシーンでオンライン会議ツールが使われている。時間の節約や交通費負担の軽減などにもつながるため、これは今後の「新常態」となっていくだろう。
また、新刊の『数字中国 デジタル・チャイナ』で紹介した、ドローンやロボット、チャットボットなど、AIを活用したさまざまな技術も中国社会で利用が増えていくと見られる。
例えば、2021年7月20日に中国河南省で発生した豪雨による災害時にもドローンが活躍した。大雨で通信設備が甚大な被害を受けて通信不能となったエリアに、チャイナ・モバイルは大型ドローン「翼龍(イーロン)」を派遣し電波を供給。被災者は、その間に家族などに安全報告を行うことができたという。
一方で、中国では日常におけるリモートワークはほとんど定着しなかった。出勤ピーク時の地下鉄は、相変わらずの人混みで大混雑している。
オンライン会議ツールを使って家にいながら友人たちとお酒を飲む「雲喝酒」(クラウド飲み)は、新型コロナの収束とともに行われなくなった。人間はやはり対面でのコミュニケーションを求めているようだ。