ハディ ハーニ パレスチナ・イスラエル紛争の非対称性

ハディ ハーニ(明治大学特任講師)

紛争の理解と「テロ」の概念

 今回の軍事衝突、およびパレスチナ・イスラエル紛争全体をできるだけ正確に理解するためには、紛争を二項以上の解像度でとらえる必要がある。本稿ではパレスチナ側からハマースとファタハ(パレスチナ民族解放運動)、イスラエル側からシオニスト右派政権と左派勢力という少なくとも4アクターを取り上げる。

 加えて、各主体の思考を「戦術レベル」と「戦略レベル」に分けて考える。この2レベルは「表層」と「構造」の語にも置き換えられ、以下では文脈に応じて互換的に使い分ける。

 表層─戦術レベルの現象とは、前線で行われる特定の戦闘・衝突の手法やその経緯、結果をまとめて指す。一方、構造─戦略レベルの現象とは、表層─戦術レベルでの趨勢にかかわらず、最終的な目標や、そこにいかに至るかという方針全般を指す。

 また、最近特に不用意に濫用されている「テロリズム」の概念にも注意が必要である。一様な定義は存在しないが、学術的合意のある限りでは、「テロリズムとは、ある集団に恐怖をもたらし、それによって特定の政治的目的を実現するために暴力を意図的に使用すること」と理解される。問題はテロの主体についてだが、非国家主体に限るべきか、主権国家やその正規軍も含みうるのかについては学術的合意がない。とはいえ、「国家の暴力だけは常に正当である」とは誰も信じないだろうし、ロシアやイラン、シリア、北朝鮮などが、欧米諸国からテロ「支援」国家認定を受けている事例からすれば、最低でも「主権国家はテロの支援者/首謀者たりうる」ことは、国際社会の常識である。

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