サッチャー――イギリスの女性宰相に何を学ぶか
池本大輔(明治学院大学教授)
(『中央公論』2024年7月号より抜粋)
マーガレット・サッチャーは1979年、イギリス史上初の女性首相となった。欧米先進国において、世襲以外で最高権力者の地位に上りつめた初の女性である。世界全体を見渡せば、60年にスリランカでシリマヴォ・バンダラナイケ、66年にインドでインディラ・ガンジー、69年にイスラエルでゴルダ・メイアが首相に、74年にはイサベル・ペロンがアルゼンチンの大統領になっているから、サッチャーが初の女性指導者というわけではない。しかし発展途上国の指導者となった女性は、男性指導者の縁者で後を継いだケースが多いのに対して、サッチャーは一般家庭の出身であった。
イギリスでは2016年にテリーザ・メイが首相に就任し、22年に2ヵ月に満たない在任期間で辞職したリズ・トラスもあわせれば、これまで3人の女性が首相を務めたことになる。女性の社会進出という観点からみた場合、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数では15位であり、女性議員の比率は約35%、女性閣僚の比率は約30%と、北欧諸国と比較すれば低い。しかしこと女性が首相になる上で乗り越えねばならない障害や、女性が首相になることが社会に与えるインパクトを考える上で同国に注目するのは、あながち的外れではないだろう。
(中略)
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