異次元の米中競争と日米同盟の行方
グリーンランド「購入」の真意
――クローニン博士は2期目のトランプ政権発足直後の1月に論文を発表し、「トランプ2・0」は「新たな超大国競争の時代」になると指摘しました。
この10年間、米中間の競争は激化してきましたが、今や転換点、新時代を迎えたと考えています。
バイデン政権下では、カート・キャンベル国務副長官、イーライ・ラトナー国防次官補(いずれも当時)をはじめとする優秀な人材が中国との競争に備えた基盤整備を進めましたが、主眼はテクノロジー分野での競争にありました。
一方、トランプ大統領は「力による平和」を標榜しています。経済、エネルギーなどあらゆる面で米国の優位性を追求し、多くの次元で中国と対立することを厭いません。同時に、そうした対立を最高指導者どうしのディール(取引)によって管理し、大国間競争に新たな枠組み、安定をもたらそうとしているのです。
トランプ氏はビジネスマンです。長く外交政策に携わったバイデン前大統領のように歴史や外交の常識にとらわれることなく、中国とビジネスの取引をするでしょう。
――中国との全面的な競争時代に入るということは、軍事的な衝突の可能性も高まるのでしょうか。
トランプ氏はビジネスの取引で勝ちたいのであって、軍事的な戦いに持ち込みたいわけではありません。彼の言動が誤解され、対立へとエスカレートする可能性はあります。ですが、戦争は金と命の無駄遣いで愚かなことだ、というのが彼の真意だと思います。
米国はこれまで海外の戦争にお金をつぎ込んできたが、もうそんな余裕はない。力を再構築する必要がある。我々の原点に立ち返り、「フロンティア精神」を取り戻そう、と呼びかけているのです。
デンマーク領グリーンランドの「購入」やパナマ運河の支配権を「取り戻す」といったとんでもないアイデアの背景には、こうした考えがあります。もちろんグリーンランドは売り物ではありませんし(笑)、実現できないでしょうが、ショッキングな発言で人々を揺さぶり、米国の影響力を誇示しようとしているのです。トランプ氏は「アメリカ株式会社」の新しいCEO(最高経営責任者)として、中国が米国について喧伝する「衰退する大国」ではなく、「台頭する大国」に戻るための新たなアプローチを取ろうとしているのだと思います。
(『中央公論』4月号では、この後も米中関係を中心にトランプの「ディール外交」の深層を読み解き、日本外交に求められるものなどについて話を聞いた。)
聞き手・構成:五十嵐 文(読売新聞論説副委員長)
1958年生まれ。米国フロリダ大学卒業、英国オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジ修了(博士)。国防大学国家戦略研究所(INSS)副所長兼研究部長、国際開発庁(USAID)長官補、新アメリカ安全保障センター(CNAS)上級顧問などを歴任。著書に『日米同盟——米国の戦略』(共編著)など。