世界最大の「権威主義国」、インドはどこへ向かうのか

湊一樹(アジア経済研究所地域研究センター研究員)

少数派に対する差別と抑圧

 モディ政権下のインドを考えるうえで、世俗主義の後退とヒンドゥー至上主義の主流化は、もう一つの重要な要素である。ヒンドゥー至上主義とは、宗教的多数派のヒンドゥー教徒が一体不可分の存在であるという(非現実的な)前提に立ったうえで、インドを「ヒンドゥー教徒のヒンドゥー教徒によるヒンドゥー教徒のための国」にしようという、排他的で抑圧的な政治思想である。

 ヒンドゥー至上主義の中心的組織である民族奉仕団(RSS)は1925年に設立され、その政治部門であるBJPとともに、1980年代から存在感を増してきた。現在では、モディ首相を筆頭に、政府・与党の要職の多くはRSS出身者が占める。

 ヒンドゥー至上主義勢力が標的にしているのが、インドの人口の約14%を占める宗教的少数派のイスラーム教徒である。昨年の総選挙でも、イスラーム教徒に対する敵愾心や偏見を煽るヘイトスピーチや陰謀論が、与党とその関連団体によって組織的に拡散された。


(『中央公論』6月号では、この後も、経済政策についてのモディとトランプの共通点や、両国の関係について論じている。)


[注]
*1 湊一樹(2024)『「モディ化」するインド─大国幻想が生み出した権威主義』中公選書

中央公論 2025年6月号
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湊一樹(アジア経済研究所地域研究センター研究員)
〔みなとかずき〕
1979年青森県生まれ。東北大学経済学部卒業。2006年ボストン大学より修士号(政治経済学)を取得後、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所に入所。専門はインドを中心とする南アジアの政治経済。単著に『「モディ化」するインド』、共著に『これからのインド』『素顔の現代インド』他がある。
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