世界最大の「権威主義国」、インドはどこへ向かうのか

湊一樹(アジア経済研究所地域研究センター研究員)

浸食される民主主義

 2月13日の米印首脳会談の共同声明は、次のような一節で始まる。


 トランプ大統領とモディ首相は、自由、法の支配、人権、多元主義を重視する、主権を有した活力ある民主国家の指導者として、[中略]インド・米国包括的グローバル戦略的パートナーシップがいかに強固であるかを再確認した。


 トランプ大統領のこれまでの「実績」を考えれば、この一文を違和感なしに読むことは難しい。実際はその正反対であり、特に第二期政権は、第一期政権の経験を活かして、より迅速かつ大規模に「改革」を断行している。このところ、相互関税をめぐる動向の陰に隠れがちだが、トランプ政権の一方的な決定によって、アメリカの民主主義を支えてきた諸制度が激しい攻撃にさらされている。

 民主的な選挙によって選ばれたリーダーが民主主義を掘り崩しているという点では、首相就任から12年目を迎えるモディが先を行く(*1)。2014年5月にモディ首相率いるインド人民党(BJP)政権が成立して以降、これまで当然視されてきた「インド=民主主義国」という前提が根底から揺らぐようになった。特に、2019年の総選挙を経て二期目に入って以降、その傾向はより顕著になり、インドはもはや民主主義国とはいえないという認識が専門家の間で定着している。

 具体的には、審議が空洞化する議会、政府の決定を追認する司法、野党や反対勢力を弾圧する手段として政府に利用される捜査機関、独立性を失った監視機構(選挙管理委員会や会計検査院)など、民主主義にとって不可欠なアカウンタビリティの仕組みが着々と骨抜きにされている。さらに、主要メディア、市民社会組織、大学などに対する政府の締め付けも着実に強まっている。

 このような民主主義から権威主義への移行過程は、プーチン政権下のロシアに始まり、ベネズエラ、トルコ、ハンガリーなどの国々が経験してきた。そして、この10年ほどの間に、「世界最大の民主主義国」インドでもそれが再現されたのである。最近では、主要SNSを情報操作に利用する手法などに関して、モディ政権下のインドを模倣する国や指導者も現れている。

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