ベネズエラで何が起きたのか――マドゥロ拘束と政権移行プロセスの真相

坂口安紀(ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)

変わるトランプ政権の言説

 今回の軍事行動が理解しづらい最大の理由は、トランプ大統領による説明が移り変わってきたことである。トランプ大統領は、第1次政権期や2期目就任前には、ベネズエラの民主主義の回復のため反政府派を強力に支援し、経済制裁でマドゥロ政権を追い詰めた。しかし2期目就任直後からは、ベネズエラの民主主義を口にすることがなくなり、昨年8月末以降のベネズエラ近海での海軍の大規模展開や小型船爆撃の理由として、アメリカ社会に大きなリスクとなっているベネズエラの麻薬組織の撲滅を挙げるようになった。チャベス政権期以降、政権や国軍上層部の多くが麻薬取引に手を染めている状況は「太陽カルテル」と呼ばれて久しいが、トランプ政権はマドゥロがその首領であるとして、マドゥロに対する軍事圧力を強めていった。

 しかしマドゥロ拘束のわずか数時間後に開かれた記者会見では、トランプ大統領は麻薬組織にはあまりふれず、代わりに繰り返し口にしたのが、西半球はアメリカの管轄であり反米政権は不要だということ(19世紀のモンロー・ドクトリンと自らの名「ドナルド」をかけた「ドンロー・ドクトリン」)、そして石油の権益の話であった。トランプ大統領の言説は、「ベネズエラにおける民主主義の回復」から「麻薬組織の撲滅」、そして最後には「ドンロー・ドクトリンと石油利権」と、短期間に移り変わったが、最終的には域内反米政権の排除と石油利権という、身も蓋もない話だったことを、トランプ大統領は隠そうともしなかった。

1  2  3  4  5