ベネズエラで何が起きたのか――マドゥロ拘束と政権移行プロセスの真相

坂口安紀(ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)

なぜマチャドではなくロドリゲスが暫定大統領に?

 同会見でトランプ大統領は、今後はアメリカがベネズエラを運営していくと述べ、世界を驚愕させた。その後マルコ・ルビオ国務長官が、それは、ベネズエラ人が政権移行プロセスを進め、アメリカはそれを監視するという意味であるとトーンダウンさせ、実際に過去2週間はそのように進んできている。

 その会見でさらに驚いたのは、この移行プロセスを担うベネズエラ側の人物として、トランプ大統領がマドゥロ政権のデルシー・ロドリゲス副大統領を指名したことだ。トランプ政権がマドゥロは正統な大統領ではないと認識しているのであれば、彼が副大統領に任命したロドリゲスにも正統性があるはずはない。

 一方トランプ大統領は、会見の中でマチャドやゴンサレスに言及することはなく、彼らは蚊帳の外に置かれた状態になった。「なぜマチャドではなくロドリゲスなのか」という記者の質問に対して、「彼女(マチャド)はとてもすてきな女性だが、人々の信頼を得ていないからだ」と回答したのみだ。国民のマチャドへの支持は与野党双方の政治家の中でも群を抜いて高く、一方ロドリゲスはマドゥロと同様に国民の支持は極めて低いにもかかわらずだ。

 トランプ政権は、移行期の責任者としてロドリゲスを指名したのは、CIAの分析結果を受けてのことだとする。移行期には多くの混乱が予測される。とくにマドゥロはいなくなったものの、彼以外のチャベス派体制がそっくりそのまま残っている状況、かつ政権と結びつく武装ギャング組織「コレクティーボ」が、マドゥロ拘束後も市民に恐怖を与えるべくバイクで市内を走り回っている状況では、大規模な暴力的内乱に発展し多くの犠牲者が出る可能性がある。それを避け、秩序と治安を維持するためには、政権メンバーやコレクティーボと話をつけられる人物が必要となる。

 マチャドを帰国させれば、チャベス派政治家や軍人、コレクティーボを刺激し反発をあおるだけで、混乱を避けられない。一方ロドリゲスは、過去20年彼らとともに働いてきた人物だ。それが、マチャドではなくロドリゲスを選んだ理由だろう。そう考えると、トランプ大統領のいう「マチャドを信頼していない人々」とは、ベネズエラ国民を指すのではなく、今もカラカスに残るチャベス派体制のメンバーたちのことを指していると考えると、腑に落ちる。(2026年1月23日脱稿)


(『中央公論』3月号では、この後も依然として残るチャベス派体制を分析し、ベネズエラの政権移行プロセスのゆくえを論じる。)

中央公論 2026年3月号
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坂口安紀(ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)
〔さかぐちあき〕
1964年生まれ。奈良県出身。国際基督教大学教養学部卒業。米カリフォルニア大学ロスアンジェルス校修士号取得。専門はベネズエラ地域研究。アジア経済研究所地域研究センター/ラテンアメリカ研究グループ長を経て、2025年より現職。著書に『ベネズエラ─溶解する民主主義、破綻する経済』がある。
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