三浦哲哉×山口祐加「自由で奥深き自炊の世界へようこそ」

三浦哲哉(青山学院大学教授)×山口祐加(自炊料理家)

コンビニ食品や外食とは違うもの

山口 私が三浦さんの本を読んで首がもげそうになるほど頷いたのが、「母のおでん」のエピソードです。三浦さんが中学生くらいのとき、母親の手作りおでんに対して父親が「セブン─イレブンのおでんのほうがおいしいな!」と言ったと。当時の三浦さんは「いや、お母さんのおでんのほうがおいしいって!」と言い返すことしかできなかったけれど、今なら、母のおでんは「取り替えが利かない風味を持つから」尊いのだとはっきりわかるとおっしゃっています。


三浦 そうなんです。コンビニのおでんは優秀な規格品だからブレがなく、きっちり旨みの効いたおいしさがある。でも自宅ではそれと違う方向で、オンリーワンのおでんを目指すべきですよね。好みのだしで好みの具材を煮れば、ブレも含めてその家の風味になります。わざわざ作る甲斐が十分にあります。


山口 私のやっている料理教室には、特にコロナ禍が明けて以降、50~60代の男性がよくいらっしゃるんですよ。その理由は大きく分けて2パターンあって、一つは、ずっと外食で生きてきた結果、まだ60代前半なのに医者から「血管年齢が80代です」「自炊しないと動脈硬化が悪化します」と言われ、仕方なく来たパターン。もう一つは、定年退職して収入が減り、今までのように外食を続けていてはお財布が持たないというパターンです。

 いずれにせよ、そうした方々は外食を食べ続けてきたことでそれがスタンダードになり、家庭の味はもう忘れつつあるんです。外食の平均点って高いんですよ。まずかったら店が潰れますし、三浦さんが今おっしゃったように、ブレがあったら困るわけで。それに対して自炊はブレて当たり前で、日によって自分の腕や勘も変わるし、買ってくる食材にも左右される。それをネガティブに捉えている方が非常に多いのですが、むしろそのブレにこそ自炊の醍醐味があるんですよね。

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