「弱いがゆえに強い」日本型ヒーローと「無双」する中華ヒーロー 英雄像の違いが示す日中文化の相違点
加藤 徹(明治大学教授)
(『中央公論』2026年4月号より抜粋)
- 町中華のラーメンとガチ中華の拉麺
- 弱くてやさしい日本のヒーロー
- マザコンの系譜
町中華のラーメンとガチ中華の拉麺
日本と中国は縁が深い。古典から現代のACG(アニメ、漫画、ゲーム)作品まで、日本人は中国ものが好きである。古代中国の春秋戦国時代の争乱や、項羽と劉邦の戦い、三国志の天下取りの興亡戦などは、昔も今も日本人のロマンをかきたてる。
江戸時代から、中国の古典小説『三国志演義』や『水滸伝』の日本語訳が刊行され、庶民のあいだでも中国のヒーローたちは親しまれるようになった。かつて作家の司馬遼太郎も述懐したとおり、日本人にとって、関羽や諸葛孔明ら中国のヒーローたちは、むしろ日本の歴史的ヒーローより身近に感じられるほどだ。
ただ注意すべきは、日本で人気の中国系ヒーローは、日本人向けにアレンジされていることだ。吉川英治の小説『三国志』の英傑たちと、中国の古典小説『三国志演義』の彼らは、実は、人物や性格、美意識がかなり違う。吉川『三国志』が町中華のラーメンなら、『三国志演義』はガチ中華の蘭州拉麺だ(もちろん、町中華のラーメンはおいしい。現代中国に「日本式ラーメン」として逆輸出され、人気を得ているほどだ)。
文芸作品はあなどれない。庶民の夢や、現実に対する不満が、文芸作品には反映される。実社会のリアルな政治・経済の動きの根底には、民衆のドロドロとした感情がある。その感情をリアルタイムあるいは先取りして顕在化するのが庶民の娯楽文芸だ。これは文化である。
本稿では、古典からACGまで日中両国のヒーロー像を比較してみよう。
筆者が考える日中ヒーロー像の違いを、一覧表にまとめてみた。

例外は多いし、異論もあると思うが、まずはこの表を叩き台として論を進めたい。