行動経済学で事務のムダをなくす

大竹文雄(大阪大学特任教授・京都大学特命教授)

依頼のメールはポイントを絞り、締め切りを明記する

 何をいつまでにどうすればいいのかを明確に書くことは、相手の「認知負荷」を大きく下げます。例えば専門分野の話をする際、自分ほどその分野のことを知らない相手に対しては、正確に伝えようと長々と書いてしまいがちですが、これは逆効果です。相手は面倒臭くなって読むのをやめてしまうからです。必要最低限の情報をわかりやすく提供するよう工夫するほうが得策です。

 人間は誰しも基本的に面倒臭がりで、ものごとを先延ばしにしがちです。これを行動経済学では「現在バイアス」と言います。人間にとって最も大事なのは現在です。だから今やらなくてもいいことは先延ばしにする。簡単にできそうだと思えば今やるし、「今すぐやれ」と言われればやりますが、依頼のメールに締め切りが書かれていないなど、いつでもいいと判断すると、無意識のうちに後回しにしてしまうものです。

 後でやればいいと思ったら、絶対に忘れます。例えば私の場合、1日に100通近くのメールが届くのです。メールフォルダのトップ画面から消えてしまえば最後、もはやそのメールを振り返ることはありません。だからこそ、相手に考え込ませず、その場ですぐに対応しやすいような文面にする必要がある。今すぐ返事が必要でない場合は、いつが締め切りなのかがわかりやすいよう、相手のカレンダーに表示されるような機能を使うのもいいでしょう。

 このように、事務作業を依頼する側が少し頭と時間を使って工夫するだけで、世の中の事務作業量は確実に減らせるのです。

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