世界で稼ぐ気がないのは、経営者の怠慢だ

柳井 正(ファーストリテイリング代表取締役会長兼社)×田原総一朗(ジャーナリスト)

世界で稼がないと食えない日本

田原 スイスの国際経営開発研究所(IMD)の調査によると、一九九〇年には、日本の国際競争力は世界第一位でした。でも今は二七位です。それから、二〇〇〇年には、日本の一人当たりGDPは世界三位だった。今は二三位です。どーんと落ちてしまった。なぜこんなに落ちたんですか。

柳井 単純に仕事をしていないからではないでしょうか。

田原 でも、他の国の人と比べて、日本の社員はみんな一生懸命仕事をしていると思うんです。それに技術力も高い。それなのになぜ駄目なんですか。

柳井 ほとんどの人は仕事をしているのではなくて、仕事をしているふりをしているようなものです。成果のあがらない仕事をしているんです。

田原 どういうことですか。

柳井 例えば、うちの社員も、放っておくとすごく残業するんですよ。でも実は残業をせずに済むような仕事を勤務時間外までしていることも多い。だから残業をしているからといって、本当の意味で仕事をたくさんしているわけではないんですね。
 結局、自分のしていることが本当に儲けにつながるのか、お客様に対して効果があるのか、といったことを考えながら仕事していない。どこか職人気質なんですね。職人気質というのは、自分ができることをとにかく繰り返すということです。これは日本人の悪い癖だと思います。仕事というのは、常に創意工夫をしていないといけません。
 もっとも社員にそうした意識付けをするのも、経営者の大事な仕事です。そういう意味では、「稼ぐ」とはどういうことかがよく分かっていない経営者が多いのかもしれません。

田原 ズバリ聞きますが、どうすれば稼げますか。

柳井 とにかく世界中で稼ぐことですよ。「内需の喚起が大事だ」などと言われていますが、日本は何にもない国です。シンガポールや香港と同じです。そういう国で、いくら内需産業を立ち上げたところで、日本全体が成り立つだけの稼ぎにはなりません。今の日本は、たまたま戦後に高度成長をして、少しばかりお金持ちになったからといって、その本質的なところを忘れて、内向き志向になっています。日本というのは、国内だけでなくて、世界中で稼がないと、本当は食えない国なんです。これは単純なことだと思います。
 僕は社員に、「日本発外資」を目指せと言っています。日本に外国の企業が入ってきたら、「外資」と言われますが、日本企業が外国に行けば、向こうではわれわれが「外資」ですね。

田原 それはそうですね。(笑)

柳井 そうすると今後は外国人も採用していかなくてはいけない。だからユニクロは、外国人が仕事をしやすい企業になる努力をしているわけです。社内公用語を英語にするという話もその一環です。でも一方で、われわれのDNAはやはり日本企業なので、人を育成するとか、きめ細かい接客サービスとか、丁重に商品を作るといった日本企業の良いとされる部分は大切にしたいと思います。

即断・即決・即実行

田原 最近はようやく日本企業の世界進出も始まったようですが、まだまだ思い切りのつかない企業がほとんどです。柳井さんは、二〇〇五年の社内標語として「即断・即決・即実行」ということを言いました。でも僕の知っている経営者の中で、この「即断・即決・即実行」をしているのは、ソフトバンクの孫さんと、せいぜい楽天の三木谷さんくらい。なぜ多くの企業はこれができないんですか。

柳井 まだ「追い詰められている」と思っていないからじゃないですかね。
 日本は、経済が元気な中国やアジアの国がすぐ近くにあるので、本当はすごく有利なんです。日本が閉塞化しているなら、このまま留まっていたら食えなくなる。それなら隣に行ってビジネスしないといけない。これは本当に単純なことです。だから「即断・即決・即実行」しないといけない。目に見えているのに何もしないというのは、経営者の怠慢だと思いますね。

田原 でも、何でも社長が「即断・即決・即実行」をしていると、独裁になりませんか。

柳井 会社のためになるような「即断・即決・即実行」は、普段から現場の店長の意見を聞いたり、営業の意見を聞いたりしないとできません。中堅幹部からの間接的な報告だけではなくて、ダイレクトに現場の人たちとコミュニケーションすることがどうしても必要になる。それをしていれば、独裁にはならないと思いますよ。

田原 柳井さんは一見、綿密な計画を立てて、その通りに事業を進める経営者のように見えますが、実際はそうではないそうですね。

柳井 全然違います。もちろん計画は立てます。でも、どれだけしっかり計画しても、実際にやってみると予想とまったく違うことばかり起こるんですね。僕はあらゆる事業というのは、実行しないと分からないものだと思っています。実行してみて、その上で考える。実行せずに考えるばかりでは、これはもう「実行しない理由」を考えているようなものですね。(笑)
 例えば、「中国限界説」みたいなことを言う人がいますが、この数ヵ月、輸出がすごく増えています。注文がどんどん入ってきている。本当に限界がくる兆候が見えたなら、そこで対応すればいい。実行しなければ、中国の正確な状況も分かりませんよ。

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