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小沢の「ダミー・カード」

臨床政治学 永田町のウラを読む
伊藤惇夫(政治アナリスト)

小沢一郎。今の政界で彼ほど存在感を持ち、大がかりな仕掛けができる人物はいない。その小沢がいよいよ「最後の大勝負」に出ざるを得ない状況が生まれつつある

 ここ二〇年ほど、政界の動向や政権の行方、あるいは時々の政局の中で、常にその去就が大きな関心を集め、節目では必ずと言っていいほど「キーマン」の役割を果たしてきた政治家が小沢一郎元民主党代表であることを否定するものはいないだろう。その結果、小沢という政治家の周りには、"神話"が生まれ、いつの間にか実像と虚像の境界線が曖昧模糊としてきていた。

 過去の小沢の軌跡を辿れば、彼の「仕掛け」が失敗に終わったケースが少なくないことはすぐに明らかになる。過大な評価には疑問も残る。だが、その一方、今の政界で彼ほどの存在感を持ち、また大がかりな仕掛けができる人物がいないことも、間違いのない事実だろう。

 さて、そんな小沢がいよいよ「最後の大勝負」に出ざるを得ない状況が、生まれつつあるようだ。果たして小沢が繰り出す次の一手はなんなのか。実はそのカギを握るのが「ダミー・カード」かもしれない。

 政治とカネを巡る疑惑に答えようとしない小沢に対し、臨時国会閉会を待って、菅執行部がようやく重い腰を上げた。現時点で結末を予測することは不可能だが、はっきりしていることがある。それは民主党内の亀裂が修復不可能とも言える状態に陥っていることと、小沢自身がこのまま「だんまり」と「居座り」を決め込んでいれば、徐々に追い詰められていくことである。これまで、あまり表立った動きを見せないことで「カリスマ性」を維持してきた小沢が、異常なほど活発に動いていること自体、自身がかなり強い危機感を抱き、今後の展開に向けて「布石」を打たざるを得ない状況に陥っている証拠ではないのか。

 それが離党→新党結成なのか、それとも民主党内での奪権闘争なのかはまだ見えないが、小沢が「最後の大勝負」に出ざるを得ない時期はそう遠くなさそうだ。

 小沢という政治家が他の政治家たちと決定的に違う点、言い換えれば"強み"は、政党や政権に対し、未練や愛着を一切持っていないことではないか。政党や政権を単なる「道具」と見なしているからこそ、政権党だった自民党を飛び出せるし、いとも簡単に政党(新進党)を解党できる。また、それが目的実現のための近道だと思えば、何の躊躇もなく「大連立」に走ろうとする。そこが小沢の怖さでもある。

 ところで、実は小沢は他の政治家とは全く違う特性をもう一つ持っている。それは「ダミー」を活用するテクニックだ。九三年に自民党を割って新生党を結成した時は、人柄に定評があった羽田孜元首相をダミーにした。同年の非自民連立政権樹立時も、細川護煕元首相がある意味でダミーだったのかもしれない。その後も新進党、自由党時代は海部俊樹元首相を三回もダミーとして活用している。一昨年の政権交代で首相の座についた鳩山由紀夫前総理も、実は小沢がダミーとして使うために誕生させたのではなかったか。基本的に小沢は自らがリーダーとして前面に出るより、ダミーを背後から操ることを好む政治家だと言ってもいい。

 おそらく小沢は一月中にも強制起訴され「刑事被告人」となるはずだ。それ以前より、一層、表に出て動くことが難しくなる。仮に民主党を割って、新党を立ち上げるにしても、「刑事被告人」がトップにいる政党など、選挙で勝てるはずがない。だが、自分に従って行動する人間を一人でも多く確保するためには、選挙になっても勝ち残れる可能性が大きいことを示さなければならない。

 となれば、小沢の取る戦術が自ずと浮かび上がってくるはずだ。そう、得意の「ダミー・カード」を活用することである。ダミーはなにも現職の国会議員に限らない。手垢にまみれておらず、知名度が高く、国民の支持を得られる存在で、小沢の「ダーティ・イメージ」をかなりの部分まで払拭できる人物ならそれで十分だろう。

 民主党内に留まって権力奪還を目指すにしても、新党を結成するにしても、小沢が必要とするのはダミー・カードのはず。おそらく小沢のことだから、すでに布石は打ってあるだろうが、それはひょっとしたら、誰もが驚愕するような人物かもしれない。もちろん、これはあくまでも勝手な推測だから、軽々に名前を挙げることはできないが、「もしかしたら」と思われる人物がいないこともない。実は昨年九月の民主党代表選の中で起きた「奇妙な出来事」が、そのヒントかも......。
(了)


〔『中央公論』2011年2月号より〕