なぜ、「政権構想」はここまで空虚になったのか

橋本五郎(読売新聞特別編集委員)×星浩(朝日新聞編集委員)×飯尾潤(政策研究大学院大学教授)

その場しのぎの総理でいいのか

 自民党時代を含めて菅さんで五人連続、国のトップリーダーが一年ほどで辞めています。たとえ構想があっても、一年で自分の考える何かを実現するのは無理です。自治体の首長でも任期は四年あって、最初の二年で歳出をカットして財源を確保し、残りの二年で独自のカラーを出すということが可能です。そこにたどり着く前に"お役ご免"になってしまっては。

飯尾 今の民主党政権は、衆議院の任期満了まで続いたとしてもあと二年。途中で解散・総選挙に打って出るのかどうかは別にして、来年夏に「定期」の代表選をやるといっていますね。新代表の任期は一年限定ということです。これ自体、大問題だと思うのですが。

橋本 英国では与党の党首の任期は選挙から選挙まで。任期は前任者の残りだけという民主党の「残り任期」の考え方はやはりおかしい。予備選挙をやっていない、国会議員だけで選んでいるからという理屈のようですが、ということは、その場しのぎで党の代表を選んでいるということでしょう。総理大臣を当座しのぎでやってもらっては困るんですよ。

 任期二年というのもやめて、英国式の総選挙サイクルにすべきでしょうね。政権を担当する政党は、選挙に勝ったら党首が首相を続投、負けたら新たな党首選びをする。「仮免」みたいな党首が国政を担うのは問題です。
 昨年五月に英国の首相になったキャメロン氏は、着任後最初の記者会見で「次の総選挙は五年後(二〇一五年)の五月第一木曜日に行う」と宣言しました。そして五年計画の政権運営をスタートさせたわけです。まず、歳出カットに公共料金の引き上げ。そのせいで今は支持率をかなり下げていますけれど、「計画」の後半になれば支持率のV字回復が見込めるという見通しがあればこそ、思い切って厳しい政策も実行できる。支持率が「危険水域」に近づくと党内が浮き足立ち、政権の尻に火がつくような環境では、中長期を見据えた政権構想を立てるのは難しい。

橋本 ただ、中長期ビジョンに基づいて国民に負担を強いたがゆえに支持率を下げたのか、それとも単に無能ぶりが露わになって底が割れたのか、頭の痛いところです。(笑)

飯尾 やはり能力のある人をきちんと選んで、選んだ以上はしっかり支えるというのが大事です。英国のブレア首相は格好よいのですが、党内掌握力に弱いところがあって、党内のライバルだった財務相のブラウンがサポートしていたんです。ちなみに、ブレアは三期目の途中で辞任して、ブラウンはその後釜で首相になったのですが、総選挙をためらったために、人気を落としました。「任期途中で首相をたらい回し」という英国のルールに反することが、労働党の致命傷になり、総選挙で敗北して下野しました。理屈にあわない政治をすると英国でさえうまくいかないという好例です。

野党も国政を担う自覚と責任を

橋本 民主党政権に最も欠けているのは、先ほどの反省がないということも含めて、政治に対する謙虚さだと感じます。「五四年ぶりの政権交代」に浮かれ、あたかも自分たちが何でもできるかのような全能の幻想にとりつかれて、完全に行き詰まった今でも払拭できていないのではないでしょうか。

 謙虚さに欠けるという点では菅さんも小沢さんも共通しています。「選挙に勝ったら政権党がやりたいようにやればよい。その結果は次の選挙で問えばよい」という政治姿勢です。でも、それなら議会はいらない。議会で野党と議論を重ね、合意を重ねていくのが民主主義のあり方のはず。

飯尾 その意見には、半分賛成、半分反対です。反対を押してでも、思い切ったことをやらなければならないときがあると思うのですよ。ただ、その場合には条件があって、与野党で徹底的に議論して、ここは妥協できるがこれはダメというところまで煮詰めてから総選挙で国民の判断を仰ぎ、その結果をふまえて粛々と実行する。白紙の委任状を得たかのように、選挙に勝てばマニフェストに謳っていないことまで勝手にやってもよいというのが間違いなのです。政権は発足したときに白紙で始まるのではなく、政権が発足する前の国会などでの政策論争をふまえて、選挙で何が選択されたのかについての合意をもとに、断固実行すべきものはするというプロセスが必要です。

橋本 民主党の言動でまずいのは絵に描いたようなダブルスタンダードになっていることですね。あれほど「総選挙の洗礼を受けない政権には正統性がない」と自民党を攻撃しておきながら、自分たちが政権の座に就くと、洗礼を受けないまま首相が代わっています。

1  2  3  4  5