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野田、谷垣の極秘会談が炙り出したコト

永田町政態学 第2回

「極秘会談」が明らかにしたのは、野田首相、谷垣自民党総裁双方の足場の弱さと不安定さだった......。

 永田町を揺るがした二月の首相と谷垣氏の極秘会談の評価は、結局、こんなところに落ち着きつつある。

「途中で漏れたら会わずに中止する」

 民主、自民両党関係者の話によると、両氏は、このような「約束」の上で会談に臨んだ。二月二十五日当日の動きを見ると、いかに秘密を守ろうとしたかがわかる。

 首相はこの日、午前十一時五十分から、港区虎ノ門の「ホテルオークラ」内の日本料理店「山里」で、藤村官房長官と会食したように装い、午後〇時五十三分に首相公邸に戻った。首相には常時、「総理番」と呼ばれる報道各社の記者が張り付いて取材している。こうした監視の目を逃れようと、藤村氏を「おとり」にし、実際には他の場所で会談相手と会う、「カゴ抜け」という手法が用いられた。首相は裏口からホテルを抜け出すと、千代田区のホテルで谷垣氏と一対一で向き合った。

 秘密裏に会うことを最優先して会談にこぎ着けた二人だったが、肝心の協議内容は調整できていなかった。

 会談では、首相が「消費税率引き上げ関連法案成立に協力してほしい」と訴え、谷垣氏も引き上げの必要性では同意したが、「選挙後なら協力できる」として、関連法案成立前の衆院解散・総選挙を求めた。首相は「解散は関連法案を通した後の話だ」として譲らなかった。

 谷垣氏はまた、「小沢一郎元代表らをどうする気か」と、首相にただした。首相が本気で消費増税関連法案成立を目指すのならば、反対する小沢氏らを、党分裂も辞さずに排除する必要があり、そこまでやる気なら法案成立後の解散総選挙を前提に協力もできると考えたからだ。しかし、首相は「何とか党内をまとめたい」などと慎重な受け答えに終始した。会談後、失望した谷垣氏は「野田はまだ解散はしたくないようだ」と周囲に漏らした。

 消費増税という政策の方向性では一致できる二人だったが、それぞれの党内を調整できる側近もおらず、衆参与野党逆転のねじれ国会により関連法案成立の見通しが立たないという閉塞状況打開には、トップ同士で話すしかなかった。しかし、すり合わせも不十分なままの会談が物別れに終わるのは自明の理だったと言える。

 さらに「秘中の秘」だったはずの極秘会談が、わずか四日後の二月二十九日に報道で明らかになると、二人の脆弱な党内基盤が浮き彫りとなった。

 二人は九月にそれぞれ代表、総裁の任期満了を迎えることも共通している。谷垣氏は、この通常国会で解散に追い込めなければ、総裁再選は困難な情勢だ。首相も「不退転の決意」として臨む消費増税に失敗すれば、再選は厳しくなる。民主、自民両党内には、橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会など「第三極」の勢いを危惧し、両氏の首をすげ替えるべきだという声も広がりつつある。

 極秘会談で解散総選挙の言質を得られなかったことが伝わると、自民党内では「選挙は遠のいた」との観測が強まった。会談を知らされていなかった石原幹事長は三月十五日夜、自らに近い議員を集めた会合「十人会」で、岸田国会対策委員長や塩谷総務会長らと総裁選に向けて意見交換した。党執行部中枢が「ポスト谷垣」に動き出したことで、谷垣氏の求心力低下は避けられそうにない。

 民主党では消費増税関連法案提出に向けた党内議論が三月中旬から佳境に入ったが、やはり会談を知らされていなかった輿石幹事長の動きは鈍い。党内の抑え役として「三顧の礼」で迎えたはずが、二十三日から二十五日まで訪中するなど、調整を丸投げしたような行動が目立った。解散総選挙に反対論が強い党内の空気を受けた輿石氏の本音は消費増税の先送りで、法案提出後も、採決を引き延ばし、継続審議にすることだとされる。

 首相は二月七日夜、イスラム研究の権威・山内昌之東大大学院教授と懇談し、十字軍と戦ったサラディンの話に聞き入った。「高潔にして騎士道的精神で知られた」というイスラムの英雄だが、敵の捕虜を無条件で釈放するなどの温情から苦戦を強いられ、政治家としては大成しなかったと聞き、首相は「自分はサラディンにはならない」と語ったという。

 首相が解散総選挙も辞さない「非情の決断」で党内の反対を押し切り、消費増税を実現できるかどうか。答えを出すまでの時間は残り少なくなりつつある。(継)

(了)

〔『中央公論』2012年5月号より〕