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安倍再登板が示す 不明瞭な党内統治

時評2012
野中尚人

 新しい自民党の総裁に安倍晋三元首相が選ばれた。衆議院の解散総選挙が近いとされる中、次期首相選びに直結するとして大きな注目を集めた選挙戦だった。まずは、新総裁の前途が実り豊かとならんことを祈りたい。

 しかし、今回の総裁選を見る限り、不安を拭えないというのが正直な感想である。一つは、総裁選の方式にあまりにも工夫がないという点である。基本的に、今回の方式は従来のものを踏襲している。しかし、第一回目の投票と決選投票とのずれの大きさは尋常ではない。党員投票において過半数を得て圧倒的な勝利を収めたのは石破氏であったが、その優位は決選投票にはほとんど反映されなかった。党員投票を決選投票においてどう扱うかは、少し工夫するつもりがあれば色々なやり方があったはずである。しかし自民党は、旧来の議員中心主義を頑なに守ろうとしたということである。

 野党時代の三年間を切り盛りしてきた谷垣前総裁を使い捨てるかのように扱ったことも問題ではなかったか。何も、谷垣氏個人に同情しているのではない。つまりは、党内の議論や政策の積み上げがあり、それを担うリーダーが党全体をまとめ上げた上で総選挙に臨むという基本的な仕組みが欠如しているとしか思えないのである。

 また、総裁選の期間が二週間と短く、候補者の見極めが十分にできないやり方も変わらなかった。国の最高指導者にならんとする人物に相応しいか否かを判定するには、もっと長い時間と、様々な状況の下でのチェックが不可欠だが、今回もそれは実現されなかった。

 考えてみると、自民党は、常に政権与党にとどまることを前提として様々なルールを作ってきた。今回は二〇〇九年の総選挙で大敗して下野した後だったが、同じような行動をとったということである。むろん、今後の具体的な対応をよく見なければならないし、経験を生かしてくれるのでは、という期待もある。しかし、安倍氏が率いた五年前の政権と同じような轍を踏まないか、「近いうちに」成立する可能性の高い新自公政権の行く末を心配してしまうのは私だけだろうか。

 他方で、派閥の役割や当選回数主義という形での年功に基づく人事システムがもはや以前のような働きをしなくなったことは明らかである。清和会(町村派)から町村会長自身が出馬したにもかかわらず、安倍氏は敢えて割って出たわけで、これでは派閥の最も根幹の機能が否定されたに等しい。また石破氏が、旧来派閥の長老たちの影響力を否定しながら善戦したことも指摘できる。また、元首相の返り咲きという事態は、順繰りの年功システムとは完全に相容れないことであり、年功システムもほぼ崩れたと見てよいだろう。

 派閥の影響力が弱まり、お役所的な年功人事の仕組みが崩れたことは、何もここ二、三年のことではない。しかし、それがいよいよ最終段階に来たということであろう。問題は、良くも悪くも、自民党の体制はこの派閥と年功システムに支えられていたが、これに代わる新しい党内ガバナンスの仕組みを構築できていない点である。新しいモデルが未だに見えていないのである。

 他方、今回の総裁選は、いわば「右傾化したポピュリズム」の雰囲気を背景として行われたということも指摘できる。特に、尖閣諸島の領有権をめぐる中国との確執は、今回の総裁選の流れを決める大きな影響を及ぼしたのではないだろうか。ソーシャル・メディアが急速に普及する中での新しいポピュリズムを、政治がどう受け止めるのか。新しく登場した「日本維新の会」への対応も、同じ文脈で考えるべきかもしれない。

 結局、私の率直な感想を言えば、自民党は、未だ本格的な改革と立て直しに成功しておらず、民主党政権の大失敗という敵失につけ込んで勢力を挽回できているに過ぎない。党支持率は一時的に上昇するだろう。しかし、それが蜃気楼でないという保証はどこにもない。確かに、安倍新総裁は、一刻も早く解散総選挙に追い込みたいに違いない。しかし、それにも増して今の自民党に必要なことがある。それは、消費税や社会保障の一体改革の進め方、TPPや成長戦略・原発問題などについて党内でしっかりとした合意形成を図ることであり、責任政党として国会改革などの統治機構改革論をじっくりと煮詰めることではないだろうか。これらの土台を築くことができれば、自民党と安倍氏に新しい確固とした展望が拓けるに違いない。
(了)

〔『中央公論』201211月号より〕