"お子様政治"では日本は変わらない

対談●引退したから話せる政治のウラオモテ
森喜朗(元首相)×藤井裕久(民主党最高顧問) 司会 鈴木美勝=時事通信解説委員

 自民党の他派閥の議員よりも、社会党議員とのほうが、仲が良かった。(笑)

藤井 もう一つ、小選挙区のメリットは、中選挙区に比べ政治活動にカネがかからないこと。そうした点を勘案した改革だったわけですけど、森さんご指摘のような問題が出てきていることも事実だと思います。
 中選挙区を採用したのは昭和三(一九二八)年ですが、時の内務大臣・若槻禮次郎は提案理由で明治、大正にやった大選挙区、小選挙区は両方ともうまく行かなかった。だから中を取って中選挙区だ─と、堂々と述べているんですね。要するに、これなら絶対だという選挙制度などないということです。政府は今年六月まで議論を進めるということですから、どんな形がベターなのか、白紙で検討されたらいいと思いますよ。

三党合意の精神を生かせるか

──攻守ところを変えた自民党と民主党ですが、これから最も考えるべきことは何でしょう?

藤井 民主党はあの三年三ヵ月で、与党の辛さというものが分かるようになってきた。ずいぶん成長したと思うんですよ。つまり偉そうなことばかり言っていてはだめだ、耐える時には耐えなきゃだめだ、ものごとをまとめるのが与党の役目なんだ、と。この教訓を野党としてどう生かしていくのか、ということですね。

 むしろ心配なのは、新人だけで一二〇人近く当選した自民党ですよ。長い間政権党の座にあって、野党に転落した苦しみを、僕らは体験しました。しかし僕らはもういなくなるわけです。辛さを知らない人間たちが、またもや数を頼みの横暴な路線に走ったりしたら、元も子もありません。
 話してきたように、大筋で方向性が一致している中で、どのように最後の折り合いをつけていくのか、知恵を絞る必要があります。

藤井 そういう意味で、昨年の社会保障と税の一体改革に関する自民、民主、公明の「三党合意」は、歴史的快挙だと私は思うのです。すべての事をいっしょにやるというのだったら、それは大政翼賛会だけど、日本の将来や国民生活にプラスになる課題に関して、部分的に合意して前に進めるというのは、当たり前のこと。今までできなかった「当たり前」が実現した意義は、極めて大きいと思います。

 まったく同感で、必要な政策については時々いっしょになってやらなければおかしいんです。ただあの合意に関しては、自民党が申し訳ないことをしました。消費税について最も責任を負うべきは自民党のはずなのに、野田さんに言わせたうえに、反対するような人間までいた。野田さんがやろうと決意されたのは立派だったと思いますよ。自民党を見渡して、あれくらいの人物がいるだろうか、と思いますねえ。

藤井 三党合意について自民党内を裏でまとめたのは、森さんを中心とするベテランの方々ですよね。表に出ている若手の手柄じゃないわけです。そういう実力者が抜けた穴をカバーできるのかと考えると、たしかに「再生」には相当な努力が必要だと言わざるをえない。

 ともあれあの合意は、中身がウンヌンよりも、いっしょにやっていこうという道が開けたこと自体に意味があります。せっかくの成果を生かさないと、議会政治は成り立たないんだということを肝に銘じて、やっていってもらいたいと思いますね。

──お話を聞くにつけ、お二人の経験や知識は、今後の日本の政治にもぜひ必要なものだと痛感します。たとえばさきほど選挙制度改革の話が出ましたが、現職議員には任せにくいテーマでもあります。お二人が中心になって検討し、意見を言うような仕組みができたら、有意義なものになるのでは。

 選挙の「せ」の字も、現場の大変さも知らないような人間たちで第三者機関を作ると、危ないんです。ただ議員を辞めた我々だったら、選挙のすべてを熟知しているわけだから、お役に立てるかもしれないね。研究してほしいと声がかかれば、喜んでやりますよ。

藤井 僕はもう自由人で口は挟まないつもりでいたけれど、森先輩に言われたらやってもいい。(笑)
(了)

〔『中央公論』2013年3月号より〕

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