橋下徹舌禍事件とメディアの大罪

森功の社会事件簿
森功(ノンフィクションライター)

 芭蕉流に一句捻れば、物言えば唇寒し初夏の嵐、といった風情だろうか。「慰安婦制度は必要なのは誰だってわかる」に続いて、沖縄の米軍司令官に言った「もっと風俗を活用してほしい」発言。五月十三日のぶら下がり会見からこの間、橋下徹大阪市長の舌禍事件は、いつになったら収束するのだろうか、と静観してきたが、事態は収まるどころか、ますますヒートアップしていった。知事就任以来、橋下徹を定点観測してきた取材者の一人として、一筆、愚見を申しあげる。

 今度の抜き差しならぬ事態は、まさしく自業自得というほかない。他党やマスメディアから自らの発言を突っ込まれるたび、橋下本人が問題をすり替え、無茶な反論を繰り返してきた。そして、それは日頃の当人の言動を観察していたら、予見できる事態でもある。

 今回の橋下発言について、問題点を挙げればきりがないので、肝心な部分だけに絞ると、「慰安婦制度の必要性」と「性風俗の活用」という趣旨になろうか。まず慰安婦制度の必要性について、これまでのぶら下がり会見のパターンなら、記者は橋下のペースに怯んで事なく終わっていたに違いない。

 だが、今度はそういかなかった。「必要とは、なくてはならないもの、という意味ではないか」と記者が反撃。すると橋下本人は、「今、必要だなんて一言も言っていない」と、問われてもない答えでかわそうとするのが精いっぱいだ。「必要とは主観的な表現ではなく、客観的事実」と言い逃れ、自ら慰安婦を認めたわけではないと煙に巻こうとした。

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