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海外に「センカク」を売り込め

日中「宣伝戦」の最前線・ワシントン
飯塚恵子(読売新聞アメリカ総局長)

 沖縄県の尖閣諸島をめぐる中国の軍事、政治両面での挑発行為は、二〇一四年も続く見通しだ。日中の間では、東シナ海での不測の事態を防ぐことが何よりも重要である。一方で、日本にとっては、国際社会に「尖閣は日本固有の領土」であることをより効果的に訴え、理解を広げることが、新年の待ったなしの課題といえる。

「防空識別圏」で高まった認知度

「日中の緊張レベルがまた上がったことは憂慮しているが、国際世論対策ということなら、今回は日本が得るものが多いだろう」
 中国が東シナ海の尖閣上空に設けた防空識別圏(ADIZ)問題の"損得勘定"を筆者に問われ、米政府のアジア担当者は一三年十二月半ば、こう答えた。

 米政府はこれを「『民間機の安全確保』という米国の国益に直結する問題」と真剣にとらえた。現場の議論では、中国の挑発的な対日行動も言及されることがあったといい、確かに日本に多少の利があったようだ。

 さらに、識別圏設定の発表が一三年十一月二十三日で、十二月冒頭のバイデン米副大統領の日中韓三ヵ国歴訪の直前となったことで、米メディアの関心は普段以上に高かった。

 米紙『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』など各紙は、米軍のB52戦略爆撃機の飛行や副大統領のアジア歴訪を一面で報じ、その中で・Senkaku"の固有名詞も頻繁に登場した。

 特に、各紙の島名表記は注目に値する。いずれもほぼ同じように、"the islands, known in Japan as the Senkaku and in China as the Diaoyu"(日本では尖閣で知られ、中国では釣魚で知られる島々)となっている。

 日本外務省はむろん、「両名併記はいただけない」と、全面歓迎はしていない。だが、一二年九月の日本政府の尖閣国有化の前後には、中国名だけの地図や、日中の順番が逆の外国報道も散見された。尖閣問題の存在と日本の主張が、多少なりとも外国メディアに認知され始めた兆候ではないか。

「不毛な岩」ではない 

とはいえ、表記はほんのわずかな一歩だ。尖閣諸島が「日本固有の領土」であることや、その戦略的な意義への理解は、海外の政官学界に浸透しているとはいいがたい。「ただの不毛な岩」と表現するアジア専門家も多い。

「米国が日米安全保障条約に基づいて対日防衛義務があるとしている島について、中国の違う言い分を通せば、同盟の抑止力が崩れてしまう。その意味を米国など海外の政治家や専門家に理解してほしい」と日米関係筋は話す。

巧妙化する中国の手法

 一三年八月、中国の「建軍記念日」を祝うレセプションがワシントンの中国大使館で開かれた。招かれた日本政府関係者は、会場にあった青いパンフレットを手にとって、ぎょっとした。

「釣魚島は昔から中国固有の領土である」と日本語で大きく記されている。「中華人民共和国国防部国際伝播局」作成とあり、中国語のほか、英語とロシア語でも同内容が裏表に書かれていた。

「中国はやることが露骨。パンフはよくできていた。普通の米国人なら、理屈が通っていれば納得してしまう。日本ももっとやらなければ」。この関係者は憂慮を隠さない。

 中国政府はこれまで、人と金を大量に投入して尖閣の領有権を外国人にアピールする"物量戦"で日本を圧倒してきた。だが、体制発足後の一三年春以降は、「物量に加え、巧妙な手法も目立つ」(ワシントンの中国専門家)という。

 一例は、ワシントンに数多くある、米政府に政策提言なども行う主要シンクタンク(政策研究機関)が舞台だ。

 インターンの空きが出ると、大勢の中国人学生が応募してくるようになったという。「一ポストに数十人、数百人の応募がある時も」と、ある米国人研究者は明かす。「一度内部に入り込めば、我々の発言動向を把握できるばかりか、中国に都合のいい資料を意図的に渡し、研究内容に影響を与えることもできる。マインドコントロールのようだ」とこの研究者は指摘した。

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