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独自に奮闘するデジタル先進自治体、豊中市・豊橋市

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第3回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)
豊中市役所(写真提供:写真AC)
今、菅政権は電子政府の「司令塔」となるデジタル庁の創設準備を急ピッチで進めている。また、昨年末には自治体DX(デジタルトランスフォーメンション)推進計画を打ち出し、地方自治体の行政デジタル化を支援していく方針も表明した。その一方で人口減少の加速などを背景に、以前から独自にデジタル化に取り組み、実績を上げている自治体も少なくない。第3回では「当たり前を地道に」実現した豊中市、押印95%廃止を実現した豊橋市というデジタル先進自治体の例を取り上げ、それぞれの奮闘ぶりを紹介したい。

ランキング1位豊中市、出発点は地図のデジタル化

地方行政専門誌「日経グローカル」(日本経済新聞社)が昨年まとめた「市区町村の電子化推進度ランキング」において、総合1位に輝いたのは豊中市(大阪府)である。

大阪市のベッドタウンとして発展し、現在は人口約40万人を抱える中核市。インターネットの本格普及前から、行政効率化の一環として「情報」に着目し、デジタル化に取り組んできた。

豊中市は1994年に「地域情報化計画」を策定。その出発点として地図のデジタル化に着手した。行政サービスに不可欠な各種地図の作成には、多大な労力を要していたからだ。

市内の道路・家屋などの情報を集めた「基本図データベース」を構築した上で、1999年に庁内LANを通じて各部署で地図情報の共有を実現。翌年にはインターネット上で市民向けにも提供を始めた。

2004年に「情報アクションプラン」を策定。それに基づいて庁内の旧いレガシーシステムを撤廃し、すべての業務システムのオープン化を完了した。情報セキュリティに関する国際規格「ISO/IEC27001」も早期に取得。セキュリティポリシーを定め、情報セキュリティ統括責任者を置いてセキュリティ内部監査を定期的に行い、問題点を発見しては改善を繰り返す―。といった地道な方法でデジタル化を推進してきたのだ。

実は、セキュリティに関して内部監査まで行う自治体はそれほど多くない。

その一方で、無料パソコン相談や講習会などの開催を通じ、情報機器に不慣れな高齢者らを支援するデジタルデバイド対策にも力を入れ、市民全体のITリテラシーの底上げに努める。このように、豊中市は「当たり前のことを地道に進める」(伊藤洋輔デジタル戦略課長)という方針を堅持しながら、電子化推進度で全国1位に上り詰めたのである。

申請は2023年までに"100%"オンライン化を目指す

豊中市は菅政権のデジタル庁創設構想に先行する形で、長内繁樹市長が2020年8月に「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出。翌月にはその戦略を策定し、1「暮らし・サービス」、2「学び・教育」、3「仕事・働き方」という3つの観点から、デジタルを活用して変革を進めていく青写真を示した。

1では情報通信技術(ICT)をフル活用する。児童の行動見守りや、シェアサイクル予約アプリの実証実験などに着手する。行政手続きデジタル化のギアを上げ、2023年度までに申請の100%オンライン化を目指す(ただし、法的・事務的に不可能なものを除く)。

2では既に小中学校で生徒1人1台のタブレット端末配備を完了。デジタル教材の本格的な活用や、指導態勢の整備に取り組む。

3では人工知能(AI)を活用した保育所の入所選考のほか、庁内では議事録の自動作成などの業務効率化を推進する。

長年の地道な努力が実り、豊中市はコロナ禍にも機動的に対応できた。例えば「3密対策」が緊急課題になると、市役所窓口や図書館などの混雑状況が一目で分かる「混雑ランプ」を市のホームページ上に早速導入。信号機のように「空き」「やや混み」「混み」の3段階で状況を表示している。

自治体ごとに財政事情などが異なるため一概には言えないが、豊中市のデジタル化には他の自治体が参考にすべき点がたくさんある。中でも、行政デジタル化があくまで手段に過ぎず、その目的は市民の幸福と街の持続可能性にあると明確に認識している点を、筆者は高く評価する。

前述した伊藤洋輔デジタル戦略課長はこう語る。「デジタル・ガバメントの取り組みを加速させ、市民の皆さんに便利で快適な暮らしをお届けするとともに、それを市の発展につなげていきたい」―。

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