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独自に奮闘するデジタル先進自治体、豊中市・豊橋市

DX後進国・日本に「電子政府」は実現するのか(第3回)
中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)

豊橋市役所(写真提供:写真AC).jpg豊橋市役所(写真提供:写真AC)

豊橋市は他自治体と共同システム、AI・RPA実証実験も

豊橋市(愛知県)は人口約37.4万人の中核市。自動車輸入全国1位を誇る三河港を中心に臨海工業地帯が広がる一方で、農業も盛んなバランスの取れた街である。同時に、前述した「市区町村の電子化推進度ランキング」で10位に入るなど、デジタル先進自治体という「顔」も併せ持つ。

官民を問わず、日本の組織は縦割りが中心であり、協働を苦手とする。右肩上がりの時代は成長がその欠陥を覆い隠してくれたが、バブル崩壊後は高コスト社会の一因として浮き彫りになった。

自治体も例外ではなく、バラバラにデジタル化に取り組んでいてはコストばかり膨らんでしまう。

これに対し、豊橋市は多額の投資を要する行政システムを他自治体と共同利用することで、大きな成果を上げてきた。具体的には、愛知県内の自治体が構築した「あいち電子申請・届出システム」をうまく活用したのだ。これにより、市民はインターネット上で1所得・課税証明書の取得、2上下水道利用の開始・停止申請、3公文書公開の請求―などを行えるようになった。

自治体のシステム標準化でも、豊橋市は先頭集団にある。例えば、自治体行政スマートプロジェクト(総務省)では、税務業務デジタル化部門の代表幹事を務めた。

他の4つの自治体(岡崎、前橋、高崎、伊勢崎の各市)とともに、職員のパソコンや業務システムのログ(履歴)をAIで解析しながら最適な業務プロセスを導出。また、人の代わりにソフトウエアが事務処理を行うRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した、定型業務の自動化などの実証実験に取り組んだ。それまで合計902時間を要していた業務を479時間(47%減)にまで効率化できるという結果を得たという。

国の標準化方針で独自システムが無駄に?

こうした経験を活かしながら、豊橋市は業務プロセスのさらなる効率化を目指している。その一環として、豊橋市はコロナ禍に対してもデジタルを積極的に活用する。特筆すべきは、スピード感あふれる押印削減である。昨年9月の河野太郎行政改革担当相による「はんこ廃止宣言」からわずか3カ月弱。豊橋市は条例改正に踏み切り、はんこを必要としていた5006種類の手続きのうち4772種類(95.3%)で押印を即刻廃止。残りについても国の法律が改正され次第、押印を廃止する方針だ。

このように豊橋市は最先端技術を積極的に導入しながら、スピード感を持って行政デジタル化を推進してきた。だが、筆者にとって気懸かりな点もある。それは、政府が昨年末に策定した自治体DX推進計画の中で、自治体情報システムの標準化・共通化する方針を表明したことである。

これまで各自治体は基本的にバラバラでシステム開発に取り組んできたから、開発コストが膨らんだり、自治体間で接続できなかったりという弊害が深刻化している。そこで国が2025年度末までに自治体の基幹系17業務について、クラウド活用を原則として標準化を完了する方針を打ち出したのである。

もちろん少子高齢化が加速し、コロナ禍で地方財政も逼迫する中で、第2回で紹介した韓国のように自治体システムの標準化・共通化は歓迎すべきことである。その一方で、豊橋市などのデジタル先進自治体が苦労して築き上げた独自のシステムが無駄になってはならないと思う。

これについて、豊橋市情報企画課長兼行政デジタル推進室長の川島加恵氏は「自治体の行政システムの標準化・共通化は、『市民全員がデジタル化の恩恵を受けること』という市の目標への近道になる」と前向きにとらえる。

ただし、行政デジタル化には職員の教育が不可欠なため、国にはその後押しなどを求めている。政府が標準化・共通化を進める上では、各自治体の声に真摯に耳を傾け、地域の実情に則した政策を展開してほしいと筆者は切に願う。

中野哲也(リコー経済社会研究所研究主幹、日本危機管理学会理事長)
〔なかのてつや〕
リコー経済社会研究所研究主幹 日本危機管理学会理事長。1962年東京都生まれ、1985年慶應義塾大学経済学部卒。時事通信社経済部、政治部記者、ワシントン特派員、大阪証券取引所主任調査役などを経て現職。
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