宮田裕章「日本のデジタル競争力は世界27位。多様なものを多様なままで扱い、未来を拓け」  

「10万円給付」に数ヵ月と1500億円余計にかかった日本はデジタル敗戦から復活できるのか
宮田裕章(慶應義塾大学教授)
宮田裕章氏(@Jan Buus)
 新型コロナで露呈した、日本のデジタル化の遅れ。データサイエンスが専門の宮田裕章慶應義塾大学教授に、「デジタル敗戦」とまで言われるようになってしまった原因と、復活への手がかりを聞いた。
(『中央公論』2021年10月号より抜粋)
目次
  1. デジタル化の遅れが招いた混乱
  2. 「デジタル敗戦」の原因

デジタル化の遅れが招いた混乱

新型コロナ対策における、デジタル化の遅れによる問題を挙げていただけますか?


 そもそも、コロナ対策のオペレーションにはさまざまな要素がからんでおり、デジタル化の遅れだけではすべてを説明できません。そのなかで、ファクトのあるものだけをお話ししたいと思います。


 多くの日本人が、まずおかしいと感じたのは、マスク不足だったと思います。同じ在庫量であっても、デジタル管理によって、どこにどれくらいあるかを把握しながら運用するだけで、マスクが特に必要な人々に届かないという状況は防げた可能性があります。例として「エッセンシャルワーカーや持病のあるハイリスクな方には1ヵ月分は間違いなく届け、それ以外の人たちにも2週間分は保証します」などとはっきり伝えていれば、多くの人が安心できたし、買い占めに走ることを抑止できたでしょう。


 もう一つの極端な例が、日本だけでなく、世界中で起きたトイレットペーパーやティッシュペーパーの買い占めです。急に大量に必要になることはないはずのものなのに、足りなくなってしまった。


 もっとも象徴的だったのは、昨年行われた10万円の一律給付でした。外国の例をみると、ドイツやイギリスは数日で給付しましたし、インドでも1週間ほどで給付しました。ところが、日本では給付が完了するまでに数ヵ月かかり、なおかつ「1500億円余計に費用がかかった」と平井卓也デジタル改革担当大臣が憤慨していました。


 日本は世界のなかでもGDPが比較的高い国ですから、「デジタルの導入に関してもそれほど遅れていないだろう」と思われるかもしれませんが、実際には日本は世界のデジタル競争力ランキングで27位にまで落ち込んでいます。

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