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宮田裕章「日本のデジタル競争力は世界27位。多様なものを多様なままで扱い、未来を拓け」  

「10万円給付」に数ヵ月と1500億円余計にかかった日本はデジタル敗戦から復活できるのか
宮田裕章(慶應義塾大学教授)

(中略)

「デジタル敗戦」の原因

なぜ「デジタル敗戦」といわれるまでに日本は遅れてしまったのでしょうか。


 アメリカと日本のこの30年間の経済状況をみると、日本はずっと低迷していますが、実はアメリカも、フォードやGMといった企業は低成長です。しかし、テックジャイアントと呼ばれるグーグル、アップル、アマゾン、マイクロソフト、ネットフリックスなどが大きく伸びていることで、国として成長の曲線を作ってきました。


 高度経済成長期のように、物事が緩やかに予測可能ななかを進んでいくときには、従来型の企業の成長の仕方でよかったのだと思います。しかし、デジタル革命が本格化するフェーズで産業構造そのものが変わってきました。そうしたなかで、企業がそれまでのビジネススタイルを維持したまま、心地よく成長し続けることは非常に困難です。


 その点で、日本は、ベンチャー企業やスタートアップ(独自性を持って新たな価値を生み出し、社会にインパクトを与える企業)を生み育てることに十分力を入れてきたとはいえないのではないでしょうか。ものづくりというスタイルに過剰に執着したことによって、デジタルを軸にしたビジネスへのシフトが遅れてしまったように思います。


日本人は個人情報を出すことへの抵抗が強いからデジタル化が進まないと聞いたことがありますが......。


 個人情報を出すのが嫌なのは、世界中の多くの国に共通した傾向であり、日本が突出しているわけではありません。EUの一部の国のほうが日本よりもプライバシー意識が高いという調査結果もあります。日本以上に国民が政府に不信感を抱いている国もたくさんあります。


 日本の問題は、情報をどう使うかというビジョンを政府が人々と共有できなかったことです。実際、多くの日本人がフェイスブックやグーグルを使っていますよね。それは──規約を知らないということもありますが──多くの場合、便利だからです。また、「公的な目的のためにデータを使っていいですか?」と言われると、日本では納得する人が多いという調査結果もあります。


 一方で日本のデジタル化の遅れは、高度経済成長期から昭和が終わるまでの成功の裏返しだともいえます。全国津々浦々にインフラがいきわたり、どこにもファックスが取り付けられたことで、飛躍的に便利になった。そのために、新しいものに替えるよりは、それまでの機器を器用に運用しながら、この30年間やってきてしまった。その結果、日本はコロナの症例報告にファックスを使っている! と世界を驚かせることになったのです。


 しかし、さすがにもうそれも限界ですから、徹底的に変更しなければなりません。日本のGDPはまだ比較的高く、国際社会のなかでも競争力がある。先んじているシリコンバレーや中国とは違う未来の可能性を、これからでも掴むことができれば、新しいステップを踏めると考えています。

(後略)

構成:戸矢晃一

宮田裕章(慶應義塾大学教授)
〔みやたひろあき〕
1978年生まれ。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。同大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座教授などを経て、2015年より慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室教授。専門はデータサイエンス、医療の質、医療政策。著書に『共鳴する未来』『データ立国論』などがある。
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