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「平民宰相」原敬と菅義偉に求められたもの―大正と令和、その政策と世論―

清水唯一朗(慶應義塾大学総合政策学部教授)
 没後100年を迎える原敬。「平民宰相」と呼ばれた原と、同じく東北に生まれ、叩き上げの政治家として首相の座に就いた菅義偉。その2人を通し、『原敬』の著者が大正と令和の政治を考える。
(『中央公論』2021年11月号より抜粋)
目次
  1. 2人の平民宰相─大正と令和
  2. 求められた「平民」イメージ
  3. 平民宰相の政策

2人の平民宰相─大正と令和

 2020年9月16日、第99代となる菅義偉内閣が発足した。7年8ヵ月という長期政権を担った前任の安倍首相との違いを際立たせるかのように、新首相の親しみやすい人物像が喧伝された。

 東北に生まれ、苦学し、政治家として叩き上げて首相の座に就いた。地元の商店街でも愛され、甘いもの、とりわけパンケーキが好きだという。メディアは100年前に「初の本格的政党内閣」を立ち上げた原敬になぞらえ、「平民宰相」と持ち上げる向きもあった。

 違う。あまりに違う。原敬の評伝を書き進めていた筆者は頭を抱えた。

 たしかに原も東北に生まれ、苦学し、叩き上げて首相となった。郷里の盛岡でも、自宅のあった東京・芝公園でも愛され、お汁粉とわんこそばが好きだった。

 しかし、政治家としての信念、政治手法、置かれた政治状況、いずれをとっても両者は対極をなすほど異なる。

 不倒の強力政権を確立した原は、むしろ安倍元首相に近い。前政権を支え、首相の不慮の事態によって突如後継内閣を担うことになった菅の立場は、原が暗殺されたあとを継いだ高橋是清を思い起こさせる。

 それにもかかわらず「平民宰相」という言葉で両者はつながれた。そういえば、数年前には田中角栄ブームがあった。

 私たちはそれになにかを託している。しかし大正と令和では、託されるものが違っているようだ。その違いは民主主義の道程を示すと同時に、私たちと政治のあり方を問うている。

 平民宰相とはなにか。その100年の歴史に分け入って考えてみたい。

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