土屋大洋×鈴木一人 サイバーや宇宙利用は手段 戦いを決する量・質・外交

土屋大洋(慶應義塾大学大学院教授)×鈴木一人(東京大学大学院教授)

クリミア侵攻時から戦法が変わらないロシア

土屋 軍事大国とは思えないようなロシアの実態が、明らかになってきています。例えば、ロシアのミサイルは意図的に市民を狙っているのか、たまたま当たってしまったのかわからないくらい命中精度が低い。ウクライナの上空にはアメリカのGPSも、ロシアの衛星測位システムGLONASSも動いているのに、本当に機能しているのか疑いたくなるぐらいです。


鈴木 GPSの「Mコード(軍用のコードで、GPS信号に対する高強度の妨害を受けても運用が可能)」は、補正をかければ数㎝レベルの誘導ができます。そこまで精密さを必要とされる兵器がウクライナには供与されていませんが、かなりの正確さは持っています。

 一方、ロシアのGLONASSはもともと精度が低く、一般向け信号ではかつては50~100mくらいずれることがあった。軍事用は精度が高いとしても、GPSよりは低いと言われています。

 ただし、6月にウクライナ中部のポルタワ州にあるショッピングセンターに落ちたミサイルは、工場との距離を考えるとGLONASSのせいではなく、最初からショッピングセンターを狙っていたと思います。


土屋 ロシアは、軍事用の通信もうまく行っていませんね。


鈴木 通常の通信衛星は静止軌道にあるので、緯度が高いとうまくつながらない。ウクライナは北緯50度くらいなので、やや厳しいとはいえ静止軌道でも大丈夫です。けれども、ロシアはさらに緯度が高いのでモルニヤ軌道(人工衛星の軌道の一つ)を通る特殊な通信衛星を使っています。これでもウクライナはカバーできますが、きちんと機能していないといいますか、ロシア軍が使いこなせていない印象を受けます。

 戦争の初期に部隊が首都キーウに行き、同時多発的に北、南、東から攻撃しましたが、そのコーディネートもうまくできていなかった。通信がきちんと行われていなかったからではないかと思います。前線とモスクワの間のコミュニケーションや、情報収集にしても不十分に見えます。

 衛星に対するサイバー攻撃に関しても、イーロン・マスクは、スターリンクへのロシアのサイバー攻撃は、2014年のクリミア侵攻の時のコードのままだ、と言っています。以前と同じく今度もうまく行くと思ったのかどうかはわかりませんが、手の内がバレていることを繰り返している。クリミアがそつなく行ったので、驕っていたのかもしれない。

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