片岡剛士 アベノミクス後をいかに乗り切るか――日本経済10年の軌跡を踏まえて考える
片岡剛士(PwCコンサルティング合同会社チーフエコノミスト)
アベノミクスへの期待と不安
まず10年前の動向から振り返りたい。2012年12月26日に誕生した第2次安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の第一の矢、つまり大胆な金融政策の中核を担うべく、13年3月20日に黒田氏が総裁に就任した。同じタイミングで副総裁に就任したのが岩田規久男(上智大学・学習院大学名誉教授)、中曽宏(大和総研理事長)の両氏である。筆者は13年3月に脱稿し、同年4月に刊行した『アベノミクスのゆくえ』(光文社新書)で、「この人事は、安倍政権が誕生するまでは考えられなかった大きな一歩でしょう」(237頁)と記したが、大きな変化が生じたことは誰しも認めるところだろう。
ただし、この人事が成立した時点で筆者には三つの不安があった。これらの不安については『アベノミクスのゆくえ』に具体的に記しているので、ここでは概略を述べる。
まず一つ目の不安としては、これがデフレからの完全脱却に向けた現実的に望みうる最強の布陣であったとしても、2%の「物価安定の目標」に見合うだけの大胆な金融緩和策が決定・実行されるのかということ。そして二つ目の不安として、13年1月に公表された政府と日銀との共同声明が示す政策目的は「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現」であって、両者がこれを達成する上で自らが行う財政・金融政策が十分であると判断すれば、日銀の金融政策は現状維持、政府は増税を行うというこの政策目的から外れた政策を取る余地があった。三つ目の不安は、14年4月のタイミングで5%から8%へと消費税増税が強行されて、日本経済がリスクにさらされることだ。