片岡剛士 アベノミクス後をいかに乗り切るか――日本経済10年の軌跡を踏まえて考える

片岡剛士(PwCコンサルティング合同会社チーフエコノミスト)

「量的・質的金融緩和」の成功

 そして、これら三つの不安は次のような形で決着した。

 まず一つ目の不安は、2013年4月4日の金融政策決定会合で決まった「量的・質的金融緩和」によって良い意味で完全に裏切られた。日銀は資金の供給や吸収を行う際の基準となる政策変数を、これまでの金利(無担保コール翌日物金利)から量(マネタリーベース)へと転換し、2%の物価安定目標を達成するためにマネタリーベースおよび長期国債・ETF(上場投資信託)の保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買い入れの平均残存期間を従来の3年弱から7年程度へ延長するなど、量・質ともにこれまでとは次元の異なる金融緩和を行うと表明したのである。

 なお、ここでの「次元の異なる」は常軌を逸しているという否定的な意味ではなく、2%の物価安定目標に見合う合理的な政策という意味だ。12年11月14日の党首討論で民主党の野田佳彦首相(当時)が衆院解散を明言したことで、円ドルレートは1ドル=70円台から、量的・質的金融緩和策の実行後に1ドル=100円台をつけるまで円安が進み、日経平均株価も8600円台から1万2000円を超える水準にまで上昇した。

 こうした資産価格の変化は、第2次安倍政権の金融政策が日銀の金融政策の一大転換へと具体的に歩みを進め、民間の将来「予想」が動き、さらにその「予想」が強まる下で、より強固なものになっていく。

 また資産価格の変化は、予想インフレ率の上昇を伴いつつ、同時期に行われた財政政策の効果も相まって、消費・投資・輸出といった総需要を拡大させ、雇用増加(完全失業率は13年12月に3・7%と1年間で0・5ポイント改善)に結び付き、13年4月に前年比マイナス0・4%であった消費者物価(生鮮食品除く総合)は13年12月には同+1・3%まで+1・7ポイント、消費者物価(食料〔酒類除く〕およびエネルギー除く総合)は同じ期間に前年比マイナス0・6%から同+0・7%まで+1・3ポイント上昇した。アベノミクスの下での13年の経済動向については拙著『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎)で詳述しているが、想定通りの効果をもたらしたのである。

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