村瀬俊朗 心理的安全性は強いチームの必要条件

村瀬俊朗(早稲田大学准教授)

ゴールがなければチームの意味がない

──どの不安も誰もがよく理解できるものであるだけに根が深く、改善は容易ではないと思うのですが、村瀬さんは実際に企業から依頼を受けて心理的安全性の向上を図る仕事もなさっています。そのときは、どのような手法を使われるのでしょうか。


 まさにゼロベースから、企業側の担当チームの方々と、何が問題かを探すところから始めますね。当然ながら企業ごと、部署ごとに環境も違えば、チーム編成の目的や達成目標も異なりますので、改善の方法はさまざまです。

 ただ、原理原則は業種や業態に関わらずどんな組織でもほぼ共通していて、目指すべきゴールが明確であり、心理的安全性が高い状態になると、挑戦的な目標を達成できる可能性が高まります。

 会社全体であれば、収益を上げるとか、新規事業を軌道に乗せるといったゴールを描きやすいのですが、分業が進めば進むほどチームごとのゴールは曖昧になりがちですし、達成度の数値化もされなくなり、単なる仕事を分け合う集団になる傾向があります。


──営業や広告であれば達成度を可視化しやすいですが、数値化が難しい部門もありますね。


 そうですね。それでもチームとしての仕事をプロジェクトごとに切り分けて、それぞれのゴールを明確に設定し役割を分担することで、メンバー間の連携も高まりやすくなります。

 私たち人間の意識は有限であり、かつ分散しやすい。なので、ゴールが明確になっていないとペース配分の最適化や、作業の効率化のための努力をせずに、惰性で働いてしまいがちです。また、役割分担が明確になっていないと、お互いに連携しなくてもできることに注力してしまいます。

 連携しなくても達成できるゴールであれば、そもそもチームを編成する意味も消えてしまいますし、チームとしての達成可能性もどんどん小さくなります。ハード面でチームが機能しない状態になってしまうのですね。


──ゴールと、それを達成するための連携までがデザインされていれば、チーム内でのコミュニケーションにおける不安は軽減されそうですね。心理的安全性の向上は、どのように確認するのでしょうか。


 個人が特定されない形式のアンケート調査を定期的に行うことで、チームの心理的安全性をある程度まで数値化することができます。

 またSlackやTeamsなどの企業内プラットフォームでのコミュニケーション量や、コミュニケーションを取る関係性の広がりなどでも、やはり数値化が可能です。いずれも個人が特定されないことが前提ですが、それなりの観察期間が必要なので、2年以上関わらせていただくこともあります。

 たとえばダイエットをする場合を考えても、目標を数字にしないと毎日体重計に乗らなくなりますし、食事や運動への意識も減退しますよね。チームワークの向上も同じで、やはり数値として見えないと、改善への取り組みも起こりません。プラットフォームの普及により、大量のデータがリアルタイムで取得できるようになりましたし、部署間のコミュニケーション量も測定しやすくなりました。部署間の流動性は、組織を発展させるための大きな鍵といえます。

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