村瀬俊朗 心理的安全性は強いチームの必要条件
- 「不安」が組織を弱くする
- ゴールがなければチームの意味がない
- どうすれば「失敗」から学べるのか
「不安」が組織を弱くする
――就職・転職の売り手市場が続くなかで人材を確保するために、企業はパワハラ体質からの脱却や労働時間の短縮など、高度成長期から続いてきた組織風土の改革を迫られています。そこで注目を集めているのが「心理的安全性」ですが、具体的には何を指している言葉なのでしょうか。
心理的安全性(psychological safety)を一言でいえば、チームにおける「意見の言いやすさ」です。
この概念はハーバード・ビジネス・スクール教授のエイミー・エドモンドソンが1999年に提唱しました。意見や反論、ミスの報告などが、叱責やペナルティ、人間関係の破綻を伴わずにできるチームは心理的安全性が高く、逆に発言や報告を率直にできないチームでは心理的安全性が担保されていないため、失敗を分析することで生まれる学習の契機が失われ、ひいては人材の流出を防ぐことが難しくなると考えられています。
たとえば部署内の会議を思い返していただければ、自由に意見したり議論したりすることの難しさを実感できるのではないでしょうか。
──自由な発言や失敗の報告がしにくいのは、それらに何らかの不安が伴うからということですね。
そうです。エドモンドソンは心理的安全性の不足が引き起こす不安を、「無知だと思われる不安」「無能だと思われる不安」「邪魔をしていると思われる不安」「ネガティブだと思われる不安」の四つに分類しています。
「無知だと思われる不安」は、「そんなことも知らないのか」と思われたくないという不安を指し、「知らない」と言えない、不明な点があっても質問できない状態を引き起こします。
「無能だと思われる不安」は、失敗やミスの隠蔽を招きます。過ちを過ちと認めない組織風土を生んでしまうのです。
──どちらも思い当たる節があります。
自分自身がそのような不安を抱いた経験も、他の人に不安を抱かせた経験もないという人は、おそらくいないのではないでしょうか。
この二つの不安は主に個人の自尊心や恐怖心に関わるものですが、「邪魔をしていると思われる不安」と「ネガティブだと思われる不安」は、どちらかといえばチームと個との関係における不安の色が濃くなります。前者はたとえば、結論が固まりつつあるのに自分の発言がその「邪魔になる」のでは、といった不安です。実は有益な新しいアイデアを出せたかもしれないのに、「邪魔になってしまうのでは」という不安から提示できないチームでは、イノベーションは起きにくいでしょう。後者は、「いつも否定ばかりしていると思われるのでは」という不安から、チームが抱える問題を指摘することを避ける、といった行動をもたらします。どちらもチームが強くなる機会の損失につながります。