増田寛也×宇野重規「人口減を止められなかった10年」

増田寛也(日本郵政社長)×宇野重規(東京大学社会科学研究所所長)
宇野重規氏(左)、増田寛也氏(右)
(『中央公論』2024年6月号より抜粋)

ゼロサムゲームの10年

――2014年に有識者グループの日本創成会議が発表した論文では、全国約1800の自治体のうち896が、人口減少により2040年までに持続不可能になりうる「消滅可能性都市」にリストアップされ、名指しされた自治体のみならず社会全体に衝撃が走りました。

 それから10年が経ち、民間の有識者により昨年結成された人口戦略会議は、分析方法に改良を加えた最新版のレポートを発表し、消滅可能性都市は744に減っています。日本創成会議では座長を、人口戦略会議では副議長を務めておられる増田さんは、この10年の変化をどのように見ていますか。


増田 10年間で大きく変わったのは、外国人入国者の増加です。入国者数は各市町村ではなく、国全体での数字でしかないので確実なことは言えませんが、おそらく消滅可能性都市数の減少に寄与しているものと思われます。ただしこれをもって、日本の人口減少に歯止めがかかったとは言えない、というのが率直なところです。


宇野 レポートを拝読しましたが、まったく同感です。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)が昨年公表した「日本の将来推計人口(令和5年推計)」では、推計方法にいくつかの改訂がなされていましたが、特に大きかったのが外国人人口の増加を見込んだものになっている点でした。

 それによれば総人口に占める外国人の割合は20年の2・2%から、70年には10・8%、2120年には17・1%にまで上昇するとされています。これにより総人口が1億人を割るタイミングも少し先送りになるなど、見かけでは改善したようにも映ります。消滅可能性都市数の減少も、この推計を反映したものなのだと思いました。


増田 今回のレポートでは、自治体間で若年人口の奪い合いが生じていることも指摘しています。10年前に「消滅可能性都市」という強い言葉で表現したことに対しては、賛否がありました。特に自治体職員の方々や地方議員の皆さまにはお叱りも含めて、さまざまなご意見をいただきました。

 ただ、関心を呼んだことは間違いなく、政府も「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定しています。地方創生担当大臣が新設され、石破茂さんが任命されましたし、地方創生の掛け声のもと、多くの自治体で人口減少対策が進められました。その施策の多くが結果として、人口という限られたパイを奪い合うゼロサムゲームに陥ってしまったことは、否めないと思います。

 人口減少には死亡数よりも出生数が下回る自然減と、転入よりも転出が上回る社会減の二つの要因があります。ここ10年の政策は、自然減を打ち返す、つまり出生数を増やす政策はなかなか効果を発揮できなかったと言えます。

 厚生労働省が先日公表した人口動態統計の速報値でも、23年の合計特殊出生率が、過去最低タイとなった22年の1・26を下回る可能性があるとされていましたが、出生率のトレンドが変わらない限りゼロサム状況は続きますので、消滅可能性都市数が減ったからといって楽観はできません。

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