Z世代は「消滅可能性自治体」リストをどう受けとめたか
将来不安を煽っているだけ?
古井 僕は最近、いたずらに不安を煽ることの罪深さを感じることが多いんですよね。
大空 少子化がまさにそうですよね。
古井 そう。少子化が問題であることには同意しますが、何をアジェンダセッティングするかが大事なのに、少子化=ネガティブという点だけが強調されてしまっている。
能條 私はそもそも少子化はそれ自体問題なのかとも思います。リストで「消滅可能性自治体」とされたところも、本当に消滅するわけではなく、今やっていることの維持が難しくなるだけ。必要なのは不安を煽ることではなく、いかに悲劇を減らし、ソフトランディングさせるかです。
大空 だから、人口戦略会議が「2100年に8000万人」という目標を設定したことには、ある種の哲学を感じます。その人口規模にソフトランディングできるよう行政サービスを設計すべきなのだ、と。政府の少子化対策にはこの発想や哲学はまだないように思います。
能條 でも、若年女性の人口を指標にすることには批判的な検討が必要ではないでしょうか。それが指標になると、高校生に県内の大学に進学してもらうようにするとか、就職で地元に戻ってきたら奨学金の返済をチャラにするとか、どう女性を外に出さないかに重点が置かれることになる。外に出たいと思わせるような環境を変えることに、本当は注力してほしいのに。
大空 政策のアウトカムの重点を出生率に置きすぎなんですよね。その数字を一番に置いて考えられる子育て支援政策は健全ではない。あくまで個々人のウェルビーイングなどに置かれるべきで、その結果として少子化が緩和されるというのが健全な気がします。
古井 子育て支援政策では欧州の国々がよく話題になりますが、先日、駐日フィンランド大使と話した時に、こうおっしゃっていました。「フィンランドは最近また少子化に向かっているが、女性の幸福度は上がり続けている。これが大事なのだ」と。少子化になっても女性が幸せなら、この先社会は必ず良くなるというのです。
能條 男女平等が進んでいる国々でも、改善されたのはこの50年くらいのこと。それまでは日本と同様に女性政治家は少なく、子育てや家事は女性がするものという価値観だった。日本だけが取り残された事実をもっと真剣に受けとめるべきです。