Z世代は「消滅可能性自治体」リストをどう受けとめたか
こんなに不安でどうやって産むの?
――子どもを持つことを望む若い世代が減っている一番の理由は何だと思いますか。
大空 「結婚したくない、子どもを持ちたくない若者像」が定型化されることで、さらなる社会的抑圧と分断を生み出しているからではないでしょうか。子どもを望まない人はいつの時代も一定数いて、それは個人の選択とされていたのに、今では「負け組」感が強調され、「結婚できる人/できない人」「子どもを持てる人/持てない人」という分断が強化されてしまっているように思います。
能條 東京一極集中は確実に影響していると思います。首都圏は子どもを産み育てやすい環境ではないのに、人口が集中している。これだけ生活費が高いと、子どもを持ちたいけれど踏み切れない気持ちも分かります。だからといって、東京には仕事もあるし、地方における女性の生きづらさを考えると東京から離れることもできない。
それに選択的夫婦別姓など、実行すれば出生率が確実に上がりそうな政策が目の前にあるのに、政府はやりませんしね。政策をつくる人たちの中に都合のいい若者像・家庭像があって、そこから外れる意見や要望を聞かないのです。
古井 僕はやっぱり不安が大きいことがあると思います。子育てに対して、ネガティブなイメージがポジティブなそれを上回ってしまっている。マイナビの調査によれば、経済的不安を感じる20代女性は8割をこえていて、それが子どもを持てないと考える一因にもなっている。じゃあいくらあればいいのかと言われると、天井がない。物価も教育費も上がっている。不安を煽られているので、いくらあっても安心できません。
大空 僕たち3人は以前から面識がありますが、実は古井さんが結婚して、お子さんを持たれたのはすごいなと感心しているんです。僕にその決断はできません。僕は自分が経験した不幸を再現してしまうことが怖いんです。過去や今が肯定できない自分の人生を我が子が再現してしまったらどうしよう、と考えてしまう。
古井 それは分かる。僕自身、お金のない家に育ったから、我が子にはお金で困らせたくないという気持ちが強くて、将来のための資金をどこまでも貯めようとしてしまう。
大空 僕も、もし子どもから「インターナショナルスクールに行きたい」とか「留学したい」と言われたらどうしようと考えてしまう。普段から「自分らしさ」が大事と言っているのに、社会で標準化された「幸せな人生」から我が子が外れることをよしとする勇気はない。
古井 子どもができると、それまでの社会に対する考えがブレるんだよね。頑張って会社を大きくしてきたはずなのに、「まだ頑張らなきゃいけないの!?」と思ってしまう。(笑)
能條 私は地元が神奈川で、ありがたいことにごく普通のサラリーマン家庭で呑気に育って十分幸せだったので、大金持ちにならなくても、このまま健康なら人生なんとかなると思える特権性があると感じます。
でも都内で子育てするとなったら事情が違う気がする。自分の子どもを大金持ちにしたいとは思わないけれど、周りと同じかちょっといい暮らしをさせたいと思った時の選択肢が、大企業に入るとかそういったルートに限られてしまっている。それ以外を選択しても幸せになれる社会をつくらない限り、人口は都市に集中し続けるし、子どもを産むことが不安なままです。
(続きは『中央公論』2024年7号で)
構成:髙松夕佳 撮影:種子貴之
1998年愛媛県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2020年にNPO法人あなたのいばしょを設立。こども家庭審議会こどもの居場所部会委員などを務める。著書に『望まない孤独』など。
◆能條桃子〔のうじょうももこ〕
1998年生まれ。神奈川県出身。慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2019年に日本のU30世代の政治参加を促進する一般社団法人NO YOUTH NO JAPANを設立。22年にFIFTYS PROJECTを設立。
◆古井康介〔ふるいこうすけ〕
1995年富山県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。在学中にアメリカ大統領選挙を現地取材し、政治の発信をサポートする事業を帰国後に開始。2017年に株式会社POTETO Media設立。