少子化対策はスウェーデンの苦闘の歴史から学べ
宮本太郎(中央大学教授)
歴史と現状から学ぶ
第一に、スウェーデンの少子化対策は若い世代を支える雇用政策と密接に連携していた。また、納税者の納得感を高める税制や、党派間の合意形成を重視する政治制度を活用してきた。スウェーデンの施策をつまみ食い的に模倣しても、必ずや壁にぶつかるであろう。同国の教訓を日本の政策に活かそうとするなら、その成功が政策と制度のいかなる連携に導かれたものだったかを理解する必要がある。
第二に、スウェーデンの少子化対策は新たな困難に直面している。2010年の1・89から合計特殊出生率が下がり始め、23年には1・45まで低下した。ただしここから「北欧の少子化対策はもはや参考にならない」という結論を導き出すのは早計である。スウェーデンの指導的な人口学者であるグンナー・アンダションらの分析によれば、出生率低下の背景には、労働市場で不安定な立場にある男女が子どもを持たないという傾向がある。就労が安定した層は第二子、第三子ももうけており、この面でスウェーデンの少子化対策それ自体は引き続き機能しているといえる。
であるからこそ、同国の少子化対策の効果を鈍らせている雇用政策の揺らぎはなぜ生じているか、いかなる対処が求められているかを併せてみていく必要がある。岸田政権が若い世代の所得を上げるテコとして、リ・スキリングを軸とした雇用政策を掲げているのであるからなおさらである。
以下では、スウェーデンがそれぞれの歴史的局面で異なる少子化要因にいかなる施策で挑んできたのかを振り返り、今日新たに直面している困難についてもみよう。完成されたモデルを探すより、このスウェーデンの苦闘の歴史から学ぶことが大事ではないか。そのための基本視点を提供するのがこの文章の目的である。