「令和の米騒動」とは何だったのか――コメ争奪戦を生んだ構造的要因と課題
小川真如(宇都宮大学助教)
多様な要因による供給の変化
今回の品薄の原因は、供給と需要の両方にあるが、とくに供給側が大きな影響を及ぼした。
23年産のコメは、面積あたりの玄米は平年並みに収穫できた。しかし、生産調整の推進を背景に生産面積を減らし過ぎたため、主食用米の生産量は、農林水産省の見通しより8万トン少ない661万トンだった。
しかも、ただの661万トンではなかった。その品質は大幅に低下しており、かつ主食用に流通させる玄米を選別する際にふるい目から落ちた「ふるい下米(したまい)」が激減するという特異な年だった。
この品質の変化には、気象が影響している。一部で渇水が起きるほどの記録的猛暑となった23年は、コメの「高温障害」により、デンプンが十分詰まらずに実った白未熟粒(しろみじゅくりゅう)や、玄米から精米する際に砕けやすい胴割粒(どうわれりゅう)が多発した。たとえば新潟県産「コシヒカリ」の1等米比率は、4.9%(平年は75.3%)にまで落ち込んだ。
ふるい下米は、前年の51万トンから32万トンへと激減し、過去最低水準となった。
ふるい下米は、低価格なブレンド米に混ぜるほか、みそや米菓、ビールなど米加工品に使用される。通常、高温障害ではコメ粒が薄くなりやすく、ふるい下米が増える。しかし23年は夏前に多くの地域で日照不足となり、イネが新しい茎を出す「分(ぶん)げつ」が抑制され、面積あたりのもみが減った。もみが平年より少ないイネは、夏以降に平年を上回る日照時間や記録的猛暑を受け、一粒一粒を肥大させたのだ。