いつ何どき、誰の挑戦でも受ける!

プロレスも心臓手術も闘いだ
アントニオ猪木(IGF会長、元プロレスラー、元参議院議員)×天野篤(順天堂大学医学部心臓血管外科教授)

プロレスラーと心臓外科医の意外な共通点

天野 高校生の頃からプロレスを見るのが好きで、猪木さんの大ファンでした。今日は、手術の前よりも緊張しています。猪木さんは、僕の憧れ中の憧れですからね。プロレスは若干ショー的な要素がありますが、猪木さんの試合は正に真剣勝負でしたよね。

猪木 五月に放送されたNHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、天野先生が「ヒーローはアントニオ猪木」と言ってくれて......。僕は放送自体を見てなかったのですが、みんなにそのことを言われて感激してね。五月にイベントを開催したときに、映像を流しながら天野先生の話をしたら拍手が沸いて、会場に集まったプロレスファンも大喜びでした。ありがとうございました。

天野 猪木さんにこれだけは聞きたいと思っていたことがあります。
 僕は、心臓手術の執刀中、頭を使うのではなく五感を最大限に生かすようにしています。目から入ったものに反応して自然に手が動いているような状態で、予期しなかったことが起こったときしか頭は使いません。緊急事態には、周囲のスタッフがパニックに陥りそうになっても、一つ頭を持ち上げて俯瞰して、もう一人の自分が体に指令を出すような感じです。猪木さんもプロレスの試合の最中は、そうだったのではないですか。

猪木 もう一人の自分が上から見ているというのは、何回か経験しましたね。あるいは、カメラのレンズで見るような感じですね。まだ試合が始まっていないときに、今日はどういう試合になるか、レンズで見るように見えたことがありました。自分の闘っている絵が見えている。

天野 それは、まったく一緒ですね。ズームレンズで見ているように、自分の気になっているところはぐっと拡大して出てきて、あとは全体が瞬間的にいくつか組み合わされた映像として見えることがあります。

猪木 もちろん、最初からそうはいかないですよ。師匠の力道山にスカウトされてプロレスラーになったばかりの頃は無我夢中で、そんな余裕はなかったからね。

〔『中央公論』20129月号より〕

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