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尾身茂分科会会長「これからも国に言うべきことは言っていく」

尾身 茂(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長) 聞き手:牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)

安倍首相と菅首相の違い

牧原 昨年八月、首相と専門家との対話を密にするかどうかという問題について、尾身先生と電話で話をさせていただいたことがありました。あの時は安倍晋三氏が首相でしたが、体調を崩されて八月二十八日に退陣表明しました。その後、菅首相になりましたが、政策などに違いはありますか。

尾身 しばしば、安倍内閣と菅内閣の政策決定の仕方に違いがあると言われますが、お二人にしょっちゅう会うわけではないので、よく分かりません。マネージメントスタイルの違いについて私が評価する立場にはありません。

 ただし、もちろん、政策上の違いは出てきます。例えば、菅首相の場合、「GoTo」に関する私どもの考えは、西村大臣を通し、あるいは、食事を一緒にさせていただいた時に率直に申し上げたので、よく理解していただいていたと思います。しかし、総理として経済の深刻な影響なども我々よりも当然考えられるので、当初「硬かった」。もっとも、最後には我々の提案よりも踏み込んで全国の「GoTo」停止を決めていただきましたが。

 安倍首相の時も「硬い」ところはありました。全国の小中学校、高校などに休校を要請したことや、国民にマスクを配布したことは、明らかに、我々の考え方と違いました。もう一つ思い出すのは「八割削減」。我々は、国民に人との接触を八割削減してほしいと申し上げましたが、安倍首相には八割では少し厳しすぎるのではないかという強い気持ちがありました。結局、「最低七割、極力八割」というところで折り合いました。

 緊急事態宣言が解除される時も違った。我々は、「直近一週間の一〇万人当たりの新規感染者数が〇・五人未満」という基準を示したが、官邸側から「もう少し幅を持たせてほしい」と言われ、「〇・五人未満程度」という表現になりました。

 国の政策は最終的には国が決めるものであり、分科会が決める話ではありません。ただし、国のガバナンスの中で、私たちは言うべきことをしっかり言ってきたつもりです。政府との対話は当然重要ですが、いざという時には言うべきことを言う。分かりにくいかもしれないですが、官邸との距離感は、このような感じです。

(構成:坂上博/読売新聞調査研究本部主任研究員)

 

(『中央公論』2021年5月号より抜粋)

尾身 茂(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長) 聞き手:牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)
◆尾身 茂〔おみしげる〕
1949年東京都生まれ。78年自治医科大学卒業。医学博士。地域医療に従事した後、世界保健機関(WHO)へ。99年WHO西太平洋地域、地域事務局長に就任。自治医科大学教授などを経て2014年より地域医療機能推進機構(JCHO)理事長。現在、新型インフルエンザ等対策有識者会議・新型コロナウイルス感染症対策分科会会長を務める。

【聞き手】
◆牧原 出〔まきはらいづる〕
1967年愛知県生まれ。90年東京大学法学部卒業。博士(学術)。専門は行政学。東北大学法学部教授等を経て2013年から現職。『内閣政治と「大蔵省支配」』(サントリー学芸賞)、『崩れる政治を立て直す』など著書多数。
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