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「富岳」の正体③ 富岳の「使いやすさ」は米中スパコンを圧倒――性能ランキング「TOP500」創始者に訊く  

ジャック・ドンガラ×聞き手:小林雅一
 日本の理化学研究所(以下、理研)と富士通が共同開発した「富岳」は2020年、スパコンの計算速度等を競う世界ランキングで2期連続の王座に就いた。巨額の開発資金、そして大規模な設計チームの並み外れた頭脳と集中力が求められるスパコン・プロジェクトは、その国の経済力や科学技術力など国力を反映すると言われる。
 拙著『「スパコン富岳」後の日本』(中公新書ラクレ)で詳述したように、現在の先端スパコンは「ペタ(・フロップス)」から「エクサ」への世代交代を迎えている。「ペタ」は一秒間に「10の15乗(1000兆)」回の科学技術計算を実行できる能力。「エクサ」は「1000ペタ」を意味する。米中は現在このエクサ級のスパコン開発を進めているが難航している模様だ。
 今回は、スパコンの国際ランキング「TOP500」の創始者にお話を伺った(月刊『中央公論』2021年1月号から抜粋。

─スパコンの技術的トレンドは歴史的にどう変化してきましたか。

 そもそもスーパーコンピュータとは科学技術計算を主な目的とし、「同時代の一般的なコンピュータより桁違いに高性能な計算機」と言うことができます。

 既に一九六〇年代には軍事用に初期のスパコンが開発されましたが、これらは多数の計算を一個ずつ順番(逐次的)に行っていく「スカラー型」のプロセッサー(CPU)を搭載していました。これをスカラー型のスパコンと言います。

 七〇年代には当時スパコンの代名詞ともなった米クレイ・リサーチ社が「ベクトル型」のプロセッサーを完成させました。ベクトル型とは演算ユニットを並列化してデータ処理を高速化する方式です。これにより「核爆発のシミュレーション」や「暗号解読」、あるいは「気象予測」や「油田探査」など、さまざまな用途に必要な大規模計算を高速で行うことができます。

 このようなベクトル型のスパコンは八〇~九〇年代の主流になりました。NECの「SXシリーズ」や富士通が現JAXAと共同開発した「数値風洞」など、当時世界的に高く評価された日本製スパコンはいずれもベクトル型です。ただ、ベクトル型のプロセッサーは言わば「カスタムメイドの高級品」であり、その開発に巨額の資金を要するのが難点でした。

 そうした中で、いわゆる「ムーアの法則」に従ってパソコンに搭載されるCPUが年々性能を上げていきました。そこで九〇年代後半になると、これら安い市販プロセッサー(commodity processor)を何千、何万個と並列に接続して高速計算を可能にする「マルチ・プロセッサー方式」のスパコンが登場しました。

 さらに個々のプロセッサーは、今では「コア」と呼ばれる演算ユニットを多数内蔵しています。これらは「マルチ・コア、マルチ・プロセッサー方式」のスパコンと呼ばれ、現在の主流となっています。

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