「富岳」の正体④ 逆転の発想から生まれた注目AI企業の自主開発スパコン

土井裕介×聞き手:小林雅一

移り変わる世界で競争力の源泉は

─米アマゾンも、そうしたAIチップを開発していると聞きました。ディープラーニングの世界では、ソフトウェアからチップ開発のようなハードウェアの方向に関心がシフトしているのですか。

 シフトと言うより、「広がっている」と言う方が適切でしょうね。もともとディープラーニングは機械学習屋さんのようなソフト開発業者がやっていたのが、やがてプロセッサーの使い方が重要だということになって、計算機屋さん(ハード・メーカー)も参入してきた。

 それでも最初はプロセッサーにGPUのような汎用製品を採用していたが、ディープラーニングがますます大量の計算を要求するようになってきたことで、AIチップのような専用プロセッサーの市場が立ち上がってきた─そういう流れだと思います。

─最近のAI業界では、競争力の源泉がMN─CoreのようなAI専用のハードウェアになってきている。つまり、そこが強ければAI企業の競争力がアップするという見方も成立するでしょうか。

 そういう側面もあると思いますが、それだけではやはり不十分でしょうね。確かにチップ・ベンダーや計算機メーカーであれば、それでいいかもしれません。しかし我々にはクライアント(顧客企業)の課題を解決したり、いずれは「お片付けロボット」のように現場の課題を解決することが求められている。

 これらさまざまな問題にディープラーニングをどう応用していくか、というのがPFNの企業価値の根本にあるわけです。そのために必要なコンポーネントの一つとして、AIチップやそれらを搭載したコンピューティング・クラスターがあると考えています。

─御社はいわゆるエッジ・コンピューティング(ユーザーの身近にある情報端末に計算能力を集中させる方式)を提唱しておられますが、その観点から今後、次世代ロボットや自動運転用のAIチップに特に注力していく方針でしょうか。

 特にハードウェアの開発という意味では、エッジよりも、むしろクラウド用の学習基盤を先に作りたい。

 まずはクラウド向けに作って、家庭や工場で働くようなロボットが日々の変化を学習する必要があれば、そういうところに提供していくことは考えられます。必ずそういう時代が来るので、あとはタイミングの問題だけかな。

─いつ頃そういう世界が実現できたらいいな、と思っていますか。

 いくつかシナリオは考えられると思うんですけど、楽観的に考えて二〇二五、二六年頃にそういうものが出てくると面白いなと思っています。

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