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「富岳」の正体⑥ がん患者の命を救う全ゲノム解析とAI――富岳で劇的スピードアップ

宮野悟×聞き手:小林雅一

ゲノム解析に必要な時間が大幅短縮

─「ディープテンソル」という別種のAIも使われているそうですね。

 ディープテンソルは富士通研究所が開発した主にネットワーク解析に使われる人工知能です。我々の研究チームはディープテンソルで、転移がんを引き起こす遺伝子変異をがん細胞のネットワークから推定しようとしています。ただ、これは非常に時間のかかる作業で、「SHIROKANE」(宮野氏が東京大学・ヒトゲノム解析センター在籍中に共同開発したデータ解析に最適化されたスパコン)を使うと二ヵ月半はかかります。

─富岳はそれを短縮できますか。

 恐らく二〇分位で終わるでしょう。しかも我々が富士通研究所と共同で加えた改良によって、ディープテンソルはがんの転移メカニズムの一端も説明できるようになりました。

─以前は「もっと良いスパコンを使いたいな」と思っていましたか。

 ええ。特に米国との違いを強く感じました。米国の研究者はアマゾンが提供するクラウド・サービス(AWS)を使っているんですよ。クラウド上で一時的に膨大な計算スペースを作って、そこでがんゲノムの大規模な研究をすぱっとやる。

 ただ、アマゾンのクラウドは確かに良いのですが、お金がかかります。とても日本の研究費では米国と同じことはできません。

 また日本の場合、ヒト(患者)のゲノム・データをアマゾンのクラウドに上げることについて主に倫理的な観点から賛否両論があります。厚生労働省の中でも意見がまとまっていないと聞きました。

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