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鈴木涼美 本能が壊れた後に、男女の性は分かりあえるか(岸田秀『性的唯幻論序説 改訂版』を読む)

第5回 たかが一度や二度のセックス(岸田秀『性的唯幻論序説 改訂版「やられる」セックスはもういらない』)
鈴木涼美

ゴーゴーバーとブルセラショップ

 女の私にとって、性産業に従事しようが、水商売を長くやろうが、或いはかつて男が独占していたような仕事に果敢に入っていこうが、昔の男のように大学でゴリゴリ勉強してみようが、男のことは正直いまだに全く分かりません。

 昔、アジアの某売春地帯で偶然知り合いのオヤジとすれ違って、綺麗なおねえさんを連れていたので、ゴーゴーバーの連れ出しを楽しみに来ていたのかと思ったら、聞けば夜のおねえさんではなく、クリーニング屋のおねえさんと金額交渉をして、ゴーゴーバーの連れ出しと同じ値段を出して2日間の恋人期間を楽しんでいるのだという。「右を見たら売春宿、左を見たら連れ出しバー、前を見たら立ちんぼのいるこの地域で、あえて別の労働をしている女性にお金を払って相手してもらうこの情緒がお前にはわからんだろう」と言わんばかりの口調でしたが、確かに、本当に恋に落ちるわけでもなく、お金は同じだけ払って、あえて素人とセックスをしようとする情緒なんて本当に1μも全くからきしワカラないなと思ったのをよく覚えています。この話を男性にすると、「よくわからん」とか「わざわざあそこまで行くなら高級バーの綺麗なおねえさんの方がいい」とか「俺はお金を払ってセックスなんてしたくない!」という人もいますが、「わからんでもない」という人もおり、男だってもちろん一枚岩ではないのですが、若い当時の私には、それが売春婦を買うより酷いことなのか同じことなのか、そもそも「サイテー」とかいう類の悪いことなのか、或いは取るに足らないことなのかもわからないほど謎でした。

 思えば、私が女子高生の時に通っていた渋谷のブルセラショップで、パンツやルーズソックスに1万も2万も払っていた男たちにも同じように、何が嬉しいのか分からないし特に分かりたくもないと思っていたものです。正直、そこで満足するのが男のどんな部分なのか、一体大金と引き換えに何を買っているのかがわからないので、特に屈辱的な気分にはならず、この世は靴下に足を通してそれを1万円で売れる私と、私の足の通した靴下を1万円で買おうというオジサンなどでできている、ラッキーくらいにしか思いませんでした。夜の世界に長くいることのデメリットはそのような、こちらから見ると馬鹿らしい欲望を抱く男性を目の当たりにしすぎて、こんな生き物と分かりあうなんて無理、という絶望を纏ってしまうことかもしれません。

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