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鈴木涼美 オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間(『"少女神"第9号』を読む)

第6回 女の子の殻をさらに包む強力な殻(フランチェスカ・リア・ブロック『“少女神”第9号』)
鈴木涼美

自分の身体に何かしてみたくて仕方なかった

 思えば、子供の頃の身体というのはその所有権が親にあるのか自分にあるのか曖昧で、自分が怪我をしたり身体を汚されたりした時でも、その痛みすら親と共有しているような感覚があります。それが急速に自分のものになっているのを、身体に自由に手を加えてみることで実感したかったのかもしれません。自分の意思でセックスしたり、お酒を飲んで普段言わないことを言ったり、タバコを吸って肺を汚したり、そういう大人になってしまえばどうでもいいようなことを、どうしてもしてみたくてたまらないのも、親の嫌がるような服を着て、親の世代と違う化粧をしてみたくなるのも、そういった儀式の一環なのでしょう。

 友人の子供がまだ小6なのにスマホを自在に操って、おしゃれなスウェットなど着て可愛く自撮りなどしているのを見ると、情報のない時代の私なんて全然もっとダサかったけれど、それでも自分の身体に何かしてみたくて仕方なかった。渋谷の高橋医院でファーストピアッシングをしたのが15歳、高校を卒業する頃には身体に開けたピアスの穴は9つになっていました。ペンシルで自在に描けるように毎日のように抜き続けた眉毛は、今でも左右まばらにしか生え揃わないし、皮膚がカサカサになるほどサロンで焼いた肌は今ではトラブルだらけです。今ではアラサー、アラフォーでも女子会なんて言葉を使いますが、それでも徐々に身体が変化して、オンナノコからオンナに変わっていく長い時間を経たから、オンナになった今の私がいます。

 そういう、オンナノコとオンナの間にある、センシティブで荒々しい時間を、パステルカラーのジーンズやヒョウ柄のソファやM&M'Sの緑色のチョコやダイエット・ソーダで彩りながら、9篇の物語にしたのがフランチェスカ・リア・ブロックの『"少女神"第9号』です。それぞれの物語には、これから自分に起こりうる変化を「でもトゥイーティー・スイートピーはもう知っていた。そのうちトゥイーティーちゃんの水着が着られなくなり、バケツの中に入れなくなる。そのうち、テレビに流れる白黒の砂嵐みたいに、いろんな音や雑音うずまく冷たい冬がやってくる。」と予感するまだ小さなコから、すべすべな肌を「あたしには特別な美容法があるの。ロックスターの体液よ」と自慢していたのに17歳でヘロインの過剰摂取で死んでしまったコまで、たくさんの、オンナになる前のオンナノコたちが登場します。

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