時を超える「戦記」――新入社員が『デルフィニア戦記』に出会ったら。

若手社員の いま気になるあの本
中央公論新社の若手社員が、刊行の今昔を問わず「いま」気になっている本について自由に語る企画。
第4回は、新入社員がであったロングセラー、『デルフィニア戦記』について取り上げます。

 世の中に、"戦記"と名のつく本は多い。「ガリア戦争」の遠征記録である『ガリア戦記』やジブリ映画にもなった『ゲド戦記』が有名だろうか。当社からも、太平洋戦争の天王山・レイテ島での死闘を再現した『レイテ戦記』や、変わったところでいえば『厚生労働省戦記』、『ゲンロン戦記』、『ゲーセン戦記』など幅広い"戦記"モノが出版されている。そもそも戦記とは、「戦争・試合などの記録。――物語」(新明解国語辞典第7版)とあり、日本でも古く遡れば平家物語のような軍記物語が残されてきた馴染みのあるジャンルだ。

  わたしはこの夏、会社の本棚でとある戦記に出会った。それが、『デルフィニア戦記』(本伝18巻)。第一巻が刊行されたのは1993年。この年からちょうど30年後に読み始めた1ページ目から夢中になってしまった。今回は、このシリーズについて書きたいと思う。

3分でわかるデルフィニア戦記

 そもそも『デルフィニア戦記』とはどのような物語なのか、あらすじと注目ポイントを簡単にご紹介したい。

 物語は暗殺集団に襲われた主人公"ウォル"が、謎の助っ人"リィ"とともに危機を辛くも切り抜けたところから始まる。この運命の出会いが伝説の幕開け。ウォルはデルフィニア国を追放された王であり、リィは異世界からやってきたのだった。この風変わりな二人を主人公にした冒険談かつ壮大なファンタジーである。

【注目ポイント① 謎の少女"リィ"】

 最強の剣士かつ美少女として描かれる彼女は、本来男性なのに女性として異世界から落ちてきた謎の存在。見た目の美しさと中身は男性というギャップに読者を驚かせるが、芯の通ったリィの言葉や戦いぶりに、いっぺんに好きになってしまうことだろう。

【注目ポイント② 描かれる"愛"】

 愛といっても恋愛要素だけでなく、人間愛とでもいうような、人と人が信頼しあう確かな結びつきが描かれている。それはファンタジーであっても変わらない不変のものだ。全く説教臭いことは描かれていないのに、読者に強く問いかけてくるものがある。

【注目ポイント③ 登場人物たちの"真っ直ぐな想い"】

 出世や名誉欲とはかけ離れた主人公ウォルの姿勢。リィがずっと会いたいと願う相棒。立場を超えて隣にいたいと恋焦がれる登場人物など、彼らの真っ直ぐな想いが人を動かし物語は進んでいく。私はウォルがある人物とようやく対面できたシーンで思わず涙がにじんだ。

 魅力的な登場人物たちが描かれる、デルフィニア国の命運をぜひ見届けていただきたい。

 

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