「街に失業者があふれようがおかまいなし」ビッグテックがAI開発に全力を注ぐ真の理由とは..「貧富の差」「モラル」を無視して進む<人工知能民主主義>に希望はあるか
知能資本の世界
あらためて未来について考えれば、この先「統治するためのAI」以前に、「AIによる資本活動」という定義が必要に迫られると思う。
筆者はかねてから「AIによる経営活動」を考えていた。
資本主義における資本とは<物的資本><人的資本><金融資本>の三つから成る。しかし、今後は<人的資本>と<物的資本>の間に、AIによる自動化された<知能資本>が立ち上がるはずだ。
ここで言う<知能資本>とは、AIに学習するための独自性のあるデータセット、またはそうしたデータセットを学習した独自のAIである。
これは自動化された知能であるため、<人的資本>とも<物的資本>とも異なるが、両方の性質を持ちうる。たとえばクリエイターの持つ想像力と技量は、それまで<人的資本>と考えられてきた。しかし、そのクリエイターとほぼ同じことができるAIが生まれれば、それは<知能資本>という新しい存在に変わる。
<知能資本>が生んだ産物については、使用する権利と範囲を企業は自由に定義できる。ChatGPTやGeminiのように有料でユーザーに貸し出してもいいし、AppleのSiriのように自社のサービスに組み込んでもいい。タダでばら撒くこともできるだろう。
これまでのソフトウェアの歴史を紐解くと、興味深いことに、あらゆる新技術は必ず無料で配布されたのちに有償化され、最終的には同等以上の機能を持つオープンソースのソフトウェアがそれに勝利してきた。
具体的に記せば、実用性がまだ定まっていない黎明期では無償で配布され、共創者を募るムーブメントを起こさないと技術は成熟しないままだ。その先で十分な実用性が判明すれば、それは商業化され、著作権で保護され、有償配布されていく。しかし、ある程度の規模になるとオープンソースのクローン品が作られるようになってしまう。
プログラミング言語、コンピュータゲーム、OS(UNIX)、データベース、Webサーバー、ブラウザといった全てがこの流れで全てオープンソース化されてきたし、最終的にそれが世界で最も普及するプラットフォームになっていった。
ともあれ、ChatGPTにしろGeminiにしろ、<生成AI>はまだ進化の途中で、根本的な問題を抱えている。
その問題とは、これから世にでるものがこれらの言語モデルによって書かれるとしたら、次の言語モデルはもう「新しい知識」を得る方法がなくなってしまうということ。
つまりそれは、自分の足を自分で食べるタコのような存在になるのを意味する。
<知能資本の本質>は「独自のデータセット」にある。そして独自性の高いデータセットに必要なのは、それを作り出す能力を持つ個人で、つまり<クリエイターの力>こそ、より重要性を増していくのではなかろうか。
そんな未来の到来を、著者は空想している。
清水亮
もの言わぬ機械とコミュニケーションをとる手段「プログラミング」。その歴史から簡単な作成、生活に役立つテクニックなどを網羅し、たった一冊でプログラマーの思考法を手に入れることを可能としたのが『教養としてのプログラミング講座』だ。「もはやそれは誰もが学ぶべき教養」というメッセージを掲げたロングセラーをこのたび増補。ジョブズにゲイツ、現代の成功者はどんな世界を見ている?