清水亮 企業の不正が世間を騒がせた今年「AI」を社長にしてみた。AIの経営判断は<残酷>だがほとんどの場合<人間よりマシ>である

人工知能はウソをつく【第8回】
清水亮
不正問題の根源は「人間が経営しているから」に他ならない?(写真:Photo AC)
急速に進化を続ける人工知能。日本政府も戦略会議を立ち上げ、その活用や対策について議論を始めた。一方、プログラマーで起業家、そして人工知能の開発を専門とする清水亮氏は「信頼に値するAIを生み出せるかどうかで私たちの未来は変わる」と喝破する。その清水さんによる人工知能についての連載、今回のテーマは「AIを社長にしてみた」です。

AIを社長にしてみた

23年1月、新宿のレストランでささやかなパーティを開いたときのこと。

 「オレは社長に向いてない」

集まってくれた昔の仲間たちを前にこう言った。

 「だからもう社長はやらない」

するとヤジが飛んできた。見ると25年来の付き合いがあるエンジニアで、経営者だった。

 「もしかしてAIが社長に!?」

そのヤジを聞いて、それもありか、と思った。

常々、自分は「これからの会社や仕事はAIによって根本的に変わる」と言っていて、数年前から「AIを社長にする方法」について考えてきた。

なお、社長という役職は「人間でなければならない」と決まっているわけではない。犬やネコが社長を務める会社も存在していたと聞く。

そこで日本のインターネット広告の先駆け的な存在であるオプト株式会社の創業メンバー・海老根智仁さんと二人でAIが社長を務める会社を作ることにした。それが「FreeAI株式会社」である。

ここでの「Free」は、「無料」ではなく「自由」の意味。社長は、AIスーパーコンピュータ継之助(つぐのすけ)が務める。24年1月1日から営業予定で、その事業内容は、社長であるAIスーパーコンピュータ「継之助」のレンタル事業とAIスタートアップへの投資事業。ただし法律上、代表取締役については人間(自然人)でなければならないため、代表取締役社長秘書を雇うことにした。

筆者自身は2003年に最初の会社を設立して以来、20年間で15社の設立に関わってきた。今年だけで、体育会系AIの会社と知識系AIの会社、イベント会社にAIサービス運営会社、AIデータ作成のための一般社団法人という5つを作っている。

エンジニア兼シリアルアントレプレナーとしてはなかなかの数と思うが、なぜこんなに会社を作ってきたのかといえば、事業ごとに会社を作る方が合理的だからだ。今の会社は資本金がかからない。1円でもいい。取締役も最小限でOK。資本の入れ方も分配も、かなり自由度が高くなっている。

なお、今年作ったそれぞれの会社のステークホルダーは異なり、全ての会社で筆者は社長を務めていない。それぞれのプロジェクト別で会社は動き、それぞれの会社の事業としてプロジェクトが進んでいる。

この仕組みによって、成果が出た時には利益を共有でき、出なかった時はそれぞれの有限責任をとるだけで済む。基本的に社員は雇わず、必要に応じて業務委託。社員がいないので、会社はいつでも解散できるというわけだ。

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