「街に失業者があふれようがおかまいなし」ビッグテックがAI開発に全力を注ぐ真の理由とは..「貧富の差」「モラル」を無視して進む<人工知能民主主義>に希望はあるか
人工知能はウソをつく【最終回】
清水亮
急速に進化を続ける人工知能。日本政府も戦略会議を立ち上げ、その活用や対策について議論を始めた。一方、プログラマーで起業家、そして人工知能の開発を専門とする清水亮氏は「信頼に値するAIを生み出せるかどうかで私たちの未来は変わる」と喝破する。その清水さんによる人工知能についての連載、今回のテーマは「未来」です。
人工知能民主主義
本連載も、10回目となる今回で最終回。最後らしく未来についての内容を書こうと思う。
近年「ビッグデータを活用し、社会の重要な意思決定を自動的に決定するのが理想の未来像」といった主張が目立つようになった。
たとえば、メディアアーティストである落合陽一や、経済学者である成田悠輔らの発言などにもそうした内容はよく見られる。なお落合は、これからの社会は「AI+VC」つまり、AIを使う資本家(VC;Venture Capital)層と「AI+BI」つまり、AIを使いベーシックインカムで暮らす層に二極分化すると予想している。
一方、哲学者で批評家の東浩紀は、そうした主張をひとくくりに「人工知能民主主義」と呼び、警鐘を鳴らしている。最近読んだ東の著書『訂正可能性の哲学』にもその考えが記されていた。
「人工知能民主主義」の到来については日々リアリティを増してきている反面、「理想」と呼ぶにはやや楽観的で、実際には希望が少ないものと著者は感じている。なぜならば、その世界観では、いつまで経っても富の不均衡、貧富の差といった大きな問題を解決できないからだ。
ある意味で、落合の考える世界を具現化したのが、シリコンバレーを中心とした今のベイエリアではないだろうか。そのベイエリアは、今や<全米屈指のスラム街>といえる様相を呈している。
1000ドル以下の商品の窃盗は、逮捕されても立件されないため、強盗が多発。結果として、大手量販店はダウンタウンから軒並み撤退、ファーストフードチェーンまで閉店を余儀なくされている。住人達はソーシャル犯罪情報アプリを使い、近所で起きる事件を相互監視し合うなど、事実上の無法状態となった。