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エイプリル・フール、「戦艦大和」の吉田満に会う(二)

【連載第十六回】
平山周吉(ひらやま・しゅうきち)

校正刷りを興奮しながら読み通す阿川弘之

 創元社としては、山手線などの車内に広告を出したり、発刊記念の展覧会を企画したりと、社内一丸となって力を入れている様子もよくわかる。資金面は、昭和二十年九月の段階で吉野秀雄の短歌にすぐ原稿料を支払っているように潤沢であった。十月の展覧会を見た一人の新進作家がおり、証言を残している。「当時無名の作家であった私が会場に入ってみると、机の上に「創元」の創刊号に収録される作品として「戦艦大和の最期」の校正刷が置いてあった」と、角川文庫版『戦艦大和』の「解説」に書いた阿川弘之である。阿川は大正九年(一九二〇)生まれで、東大では吉田の二年先輩、海軍予備学生は二期で、こちらも吉田の先輩にあたる。阿川が『山本五十六』以下の海軍ものを書くのは、ずっと先のことだ。

「[ゲラ刷りは]題材が題材であるし、かたかなまじり文語体の異様に張りのある文章に惹かれて最初の数行を読み出したら止められなくなり、私はそこに立ちつくして、かなりの長さのこの作品を最後まで一気に興奮しながら読み通した。人に変に思われはしまいかと、読みながら何度も気にした記憶があるので、多分私は顔色を変えたり涙をこぼしそうになったりしていたのであろう。編集部員の一人が見知らぬ私の傍へ寄って来て、/「どうです? なかなかいいでしょう?」/と話しかけた。/「素晴らしいものです」/と答えて私は会場を出たが、それが私のこの作品に接した最初で、受けた印象は実に鮮烈であった」(阿川「解説」)

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