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『3年B組金八先生』と『先生を流産させる会』の連続と断絶

小山内美江子(脚本家・「JHP・学校をつくる会」代表)×内藤瑛亮(映画監督)

なぜ女子生徒にしたのか

小山内 『先生を流産させる会』は、実際にあった事件をモチーフにした映画ですよね。

内藤 二〇〇九年に愛知県の中学校の男子生徒五人が、「流産させる会」を結成し、不満を持っていた担任の女性教師の給食に異物を混入したり、椅子の背もたれが倒れるように細工したりした事件です。実際には大事に至らず、先生は無事出産することができたのですが。

小山内 見せてもらったけど、明るい作品じゃないことは確かね。(笑)

内藤 そうですね(笑)。僕自身、中学時代にちょっとしたいじめにあったこともあって、殻に閉じこもりがちだったんですよ。モグラが太陽の光を苦手にするようなもので、明るい学園ドラマみたいなお話は、受け付けなかった。この映画には、そんな僕の思春期の"暗さ"が投影しているのかもしれません。

小山内 実際の事件を起こしたのは男子生徒なのに、この映画では女の子たちが「主役」。どうして変えたの?

内藤 愛知の事件のニュースを見て、とにかく「流産させる会」という言葉にぎょっとしたんですね。

小山内 嫌な言葉です。この子たちのこと、とても許せない。

内藤 一番表現したかったのは、この言葉がどうしてこんなに嫌な気持ちにさせるのかということなのです。そう考えていったとき、妊娠そのものに嫌悪感を覚えるキャラクターを主体に据えないと、そこに迫れないんじゃないかと。まさに自らが妊娠できる体に変化しつつある女子生徒こそ、適役だと思いました。実はそこも中学時代の思い出が伏線になっていて、あるとき「セックスで自分たちが生まれてきたなんて、やだよね」という女子同士の会話を耳にしたんです。そのときは能天気に「そうなんだ」と感じただけだったのですけど、今から考えると、彼女たちは、性的に成熟していくのを拒みたい年頃だったのでしょう。その拒絶感、嫌悪感を、女子生徒たちのリーダーの「サワコ(担任の名)、セックスしたんだよ。気持ち悪くない?」というセリフに込めました。

子育てをヒントにした『金八』

小山内 私は暗いのをより暗くするのは嫌で、『3年B組金八先生』にしても学校をめぐる現実が暗いからこそ、どうやってその暗さを突き抜けて行こうかと、三十年前からやってきました。

内藤 『金八先生』のスタートは......。

小山内 一九七九年の十一月。TBSから、「金曜八時のゴールデン向けに、テーマは任せるから何か書いてほしい」と依頼があって。受けようか迷っているときに、中学生の万引き事件とか家出だとかの新聞記事が目に入ったのね。子どもたちが追い詰められているという社会の空気を強く感じて、そういえば息子も中学を卒業して高校生になったばかりだし、「中学生」だったら書ける、書いてみたいと引き受けた。

内藤 子育ての実体験が、ドラマに反映されたのですね。

小山内 もちろん、ドラマだから「本物」じゃない。ただ特に第一シリーズは、取材している時間もあまりなかったから、息子と過ごした中学三年間のできごとがかなり役立ちましたね。実は喘息気味の母のために熱海の外れに家を建て、息子も中学の三年間だけはそこで暮らしたんですよ。海岸線から二百メートルは登った山のなかだったけど、そのうち息子が友だちを連れてくるようになった。彼らは"山に住むおばさん"に気を許して、しゃべるしゃべる。親の悪口、先生の悪口、学校の悪口......。聞いてるこっちが冷や冷やするくらい。(笑)

〔『中央公論』201210月号より〕