管理職を目指さない自由を

「四十歳定年制」より大事なこと
濱口桂一郎(独立行政法人労働政策研究・研修機構統括研究員)×海老原嗣生(株式会社ニッチモ代表取締役)

四十歳定年制はナンセンス?

海老原 今年の夏、国家戦略室のフロンティア分科会「繁栄のフロンティア部会」で提言された「四十歳定年制」。少し正確に言うと、日本が二〇五〇年に繁栄しているにはいくつかの条件が必要で、その一つとして、みんなが七十五歳まで働き、人生で二、三回転職することが普通になる社会にするために、「労使が自由に定年年齢を設定できるようにして、最速で四十歳定年制を認める」というものです。問題意識としてわかるところもあるけれど、反発するところもかなりある。すぐに「ナンセンス」とコメントを出された濱口さん、いかがですか?

濱口 まず、定年とは法律学的に言えば、年齢に基づく強制退職年齢です。四十歳定年ならば、四十歳になったというただそれだけの理由で解雇することを、世の中の規範として確立しましょうということ。
 次に経済学的に考えれば、エドワード・ラジアーの議論を引き合いに出すまでもなく、賃金構造に直結する。賃金構造を変えずに四十歳定年制にするのであれば、会社のために一所懸命働いてきた労働者が、これからその貯金を下ろそうという時期にクビになる。経済学的に合理的な四十歳定年制があるとすれば、四十歳までに会社と労働者との間で仕事と賃金の貸し借りがゼロになる制度を作らなくてはいけない。はたしてそこまで考えているのか甚だ疑問です。

海老原 まず、定年が強制退職だという点からすると、年金との連結を考えなくてはいけませんね。

濱口 少なくとも先進国の水準から言えばそうなります。OECD諸国で現在、年金支給前の定年を禁止していないのは日本と韓国だけ。そもそも欧米の感覚では、年齢を理由にした解雇が許されるとすれば、それは国がちゃんと年金を支払うという条件が必要でしょう。アメリカに至っては上限なく年齢差別が禁止されている。

海老原 二番目の賃金制度については、僕もまったく同感です。この報告書は、"定年"の定義をゆるやかに捉えていて、「期限の定めのない雇用契約を正規とするのではなく、有期を基本とした雇用契約」にすべきであるとしています。僕は、細かな点はともかく、就職して二〇年経った時に、次の再契約をするかしないか考えてみましょう、取り敢えず人生の途中で契約を一回清算してみましょうよ、という概念に関しては、肯けるところがあるのですが。

濱口 辞めたい人がもっと気楽に辞められる社会という趣旨なら賛成ですが、辞めたくないのに辞めさせられる社会が望ましいとは思えません。本音を言えば、年功的な賃金体系のために中高年の人件費がかさむので、早いうちに追い出したいというだけではないのでしょうか。

〔『中央公論』201212月号より〕

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